投機と投資
森永卓郎
経済アナリスト
獨協大学経済学部 教授
資本というのは、労働と並ぶ重要な生産要素だ。何かのビジネスをするときには、オフィスや工場を借りなければならないし、原材料も仕入れなければならない。それらには、資金が必要だ。だから、資金を提供した人には、その貢献に対して利息や配当が支払われることになる。ところが、日本経済が低迷しているために、既存のビジネスには大きな資金需要がない。そのため、金利も配当もきわめて低い水準になってしまう。
ところが、日本でも、すべての企業の資金ニーズが弱いわけではない。新しい技術やビジネスモデルを掲げて、飛躍しようとする企業は存在するし、そうした企業に旺盛な資金ニーズがあることも事実だ。しかし、注意しておかなければならないのは、新興企業が単なる投機のための資金を必要としているケースも、ままあるということだ。悩ましいことに、投機を手掛ける企業に投資をする方が高利回りを得られるケースも多いのだ。
しかし、投機を行う企業への投資は、社会を荒廃させるだけだ。企業を乗っ取って、その企業が培ってきた企業理念や文化を破壊し、まるでイナゴの大群のように荒野だけを残して去って行く。あるいは、原油や穀物を買い占めて価格を高騰させ、庶民の暮らしを破壊する。それが投機資金のやることだ。
もちろん、私は投機家ですと言って金を集める事業家はいない。彼らは必ずまともな事業家の顔を装う。彼らのその正体を見破る一番よい方法は、事業の分かりやすさだ。分かりやすいビジネスモデルを提示していたら、疑ってかかるべきだと思う。本当に革新的なビジネスは、凡そ分かりにくいものだからだ。
PROFILE
1957年生まれ。東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社、日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局、株式会社UFJ総合研究所 経済・社会政策部部長兼主席研究員を経て独立。獨協大学経済学部 特任教授。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。難しい『経済』を切るその語り口は解りやすく、明快である。「年収300万円時代を生き抜く 経済学」の著者。数々のニュースキャスターのほか、ラジオのパーソナリティーとしても活躍する経済アナリスト。
「経済」関連以外では、ミニカーコレクターとしても有名であり、食玩やミニカー、フィギュア、有名人のサイン入り名刺、消費者金融のポケットティッシュ、携帯電話ストラップを収集している。