エンジェル投資で節税する方法のひとつに「エンジェル税制」という制度がある。一定の要件が必要であったり、手続きが煩雑でわかりにくいなどのデメリットはあるが、エンジェル税制を受けることができればかなりの節税になる。
さらに、投資先の事業が失敗した後のリスクを軽減することもでき、メリットが大きいため、ぜひエンジェル税制を活用して欲しい。
「エンジェル税制」の仕組みや必要な手続きなどについて解説していく。
エンジェル税制とは
エンジェル税制とは、(創業して間もない)未上場企業に投資をおこなった個人投資家に税制上の優遇措置をする制度である。
(平成22年5月31日時点では)関東経済産業局管内における確認実績によると、平成9年からの累計で213社がエンジェル税制を活用している。
エンジェル税制を活用することで、個人投資家は「投資した年」と「株式を売却し損失が発生した年」の2つの時点で優遇措置を受けることができる。
エンジェル投資した年に受けることができる優遇措置
投資した年で受けることができる優遇措置は「優遇措置A」と「優遇措置B」の2種類があり、それぞれ要件を満たせば適用される。
優遇措置A
創業(設立)3年未満の中小企業であることが条件のひとつ。
さらに、1年未満から3年未満まで、年数ごとに細かい規定がある。
主に、以下の要件が指示されている。
①研究者あるいは新事業活動従事者、常勤の役員・従業員の数
②営業キャッシュフローが赤字であること
③試験研究費が収入金額の3%を超えていること
優遇措置Aは、(エンジェル税制対象企業への投資額-2,000円)をその年の総所得金額から控除するもの。
ただし、控除対象となる投資金額の上限は、総所得金額×40%あるいは1,000万円のうち低い方になる。
例えば、総所得金額800万円の投資家が企業に 500万円投資した場合、優遇措置Aの上限に達し、総所得金額×40%が控除対象となる。
(800万円×40%)-2,000円の319,8万円が控除となる。
総所得金額500万円の投資家が企業に100万円投資した場合、 優遇措置Aの上限には達しないため、100万円-2,000円の99.8万円が所得控除となる。
つまり、総所得金額が少なく少額投資である方が、投資したお金のほとんどが控除の対象になり、メリットが大きい。
会社員など一般の人が選ぶべきなのが「優遇措置A」である。
優遇措置B
優遇措置Bの対象となる企業は創業(設立)10年未満の中小企業であること。
また、こちらも1年未満、2年未満、2年以上~5年未満、5年以上~10年未満といったように、年数ごとに必要な条件を規定している。
優遇措置Bは、エンジェル税制対象企業への投資額全額をその年の他の株式譲渡益から控除するもの。また、優遇措置Bには上限がない。
総所得金額500万円の投資家が企業に900万円投資した場合、もしその他の株式譲渡益が400万円だったら以下のようになる。
優遇措置Aにすると、199.8万円が所得控除となる。
優遇措置Bを選べば、株式譲渡益400万円が控除となる。
投資額が大きいほど、税制上の優遇措置によるメリットも大きくなるため、投資で生計を立てている人が選ぶべきなのは「優遇措置B」である。
株式を売却した時に受けることができる優遇措置
投資家がエンジェル税制対象企業の株式を売却し、損失が生じた場合、損失が生じた年の他の株式譲渡益と通算(相殺)することができる。
もし損失が生じた年に通算(相殺)できなかった場合でも、翌年以降3年に亘って、株式譲渡益と通算(相殺)が可能。
失敗の確率が高いといわれるエンジェル投資のリスクを軽減することができる。
なお、前述した優遇措置Aまたは優遇措置Bを受けた場合は、その控除対象金額を取得価額から差し引いて売却損失を計算する。
エンジェル税制を受けることができる要件
優遇措置を受けるためには、投資先企業と個人投資家のどちらにも要件がある。
エンジェル税制対象になる企業の要件
まず、投資先企業は優遇措置Aや優遇措置Bの要件の他に、前提といえる絶対条件が3つある。
①特定の株式グループからの投資の合計が5/6(約83%)を超えない会社であること
創業者本人、親族や関係会社など内部での株式が5/6以上を超えず、エンジェル投資家など、外部の株式が1/6以上あれば該当する。
②大規模法人(資本金1億円超など)の子会社、グループ会社ではないこと
③未公開・未上場企業であり、風俗営業などに該当しないこと
事前確認制度
エンジェル投資を決める前に、ベンチャー企業がエンジェル税制の対象かどうかを確認できる制度だ。
事前確認制度を受けてエンジェル税制対象だった企業は、中小企業庁のホームページに会社名・所在地・電話番号などが公表されているため、確認してみよう。
エンジェル税制の対象になる個人投資家の要件
①金銭の振り込みにより、対象となる企業の株式を取得していること
他人からの譲渡株式や(金銭でなく)現物投資をした場合は税制の対象にはならない。
②対象企業が同族会社である場合、親族や関係者などの株主グループに属していないこと
同族会社とは、その会社の3人以下の株主(親族や関係会社など)が、会社の株式または議決権を50%保有している会社である。
その3人のうちの1人ではないことが要件だ。
エンジェル税制申請の手続き
エンジェル税制の手続きには、投資先企業と個人投資家の双方が手続きをおこなう必要がある。
この手続きに掛かる期間は1ヶ月ほどと長い。
必要書類も多く面倒だといわれているが、完了すれば優遇措置の節税効果は大きい。
以下、個人投資家が必要な手続きや必要な書類を中心に説明していく。
エンジェル税制申請の主な流れ
①投資先企業が事前確認制度を利用していない場合、エンジェル税制対象になる企業の要件を満たしているかを確認する
そして、エンジェル税制対象の要件を満たした企業に、同じく要件を満たしている個人投資家が投資したことを確認する書類をもらう。
この時、企業が各都道府県の経済産業局の窓口に提出する書類には「投資契約」の写しが必要になる。
エンジェル投資家が(証券会社などを通さずに)直接投資をする時は「投資契約書」を書かない場合が多い。
エンジェル税制を適用する際には「投資契約書」を交わすことを怠らないよう注意しておこう。
投資契約に必要な記載事項は以下のURLで確認できる。
②投資先企業が経済産業局から確認書などを交付されたら、その書類を個人投資家へ渡す
個人投資家に渡される書類は「経済産業大臣からの確認書」「投資をした個人が減税対象要件を満たしていることの確認書(企業が作成する)」「株式異動状況明細書」の3つである。
③この3つの書類と税務署から交付された書類を合わせて、個人投資家が確定申告の際に提出する
確定申告の時に添付する書類や記載する内容は、優遇措置A・優遇措置Bによって変わる。
優遇措置A・優遇措置Bどちらも投資先の企業から交付されるものは添付するが、税務署から入手して添付する書類が異なる。
優遇措置Aを選んで所得税の控除を申請する場合、税務署から入手する書類は「特定(新規)中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除の明細書」「特定新規中小会社が発行した株式の取得に要した金額の寄付金控除額の計算明細書」である。
確定申告を作成する時は、「寄付金控除額の計算」の欄に寄付年月日、種類、金額、寄付先の所在地、寄付先の名称などを記載する。
優遇措置Bを選んで株式譲渡益の控除を申請する場合、「株式等に係る譲渡所得税等の金額計算明細書」「特定(新規)中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除の明細書」が必要。
確定申告に記載する内容は上場株式の譲渡所得と変わらないが、エンジェル税制で株式譲渡の控除を受けるためには、以下の点に留意する。
■「特定投資株式の所得に要した金額の控除の特例の適用がある」にチェックを入れる。
■金融・証券税制(特定投資株式の取得金額控除)画面で必要な項目を入力する。
確定申告が不備なく通ったら、手続きは完了。
税制上の優遇措置を受けることができる。
まとめ
エンジェル税制によって受けることができる税制上の優遇措置は、「投資をした年」と「株式を売却し損失が出た場合」の2つに適用される。
投資をした年に受けることができる税制上の優遇措置には「優遇措置A」と「優遇措置B」がある。
優遇措置Aは「投資額-2,000円」の所得税控除がある。ただし、総所得の40%または1,000万円の上限があり、投資を中心におこなっている人にはそれほどメリットはない。
少額投資、総所得500万円ほどの一般の人は優遇措置Aを選ぶことをオススメする。
優遇措置Bは、株式譲渡益を全額控除の対象にするものであるため、投資家として主に活動している人が選ぶとメリットが大きい。
ただし、エンジェル税制の対象になる要件は、投資先企業、個人投資家の双方にある。
また、要件は非常に細かいため、経済産業省のホームページで確認しよう。
この要件を「事前確認制度」によってクリアしている企業はホームページに掲載されている。
手続きに関しては、(投資家だけではなく)投資先企業にも手続きをしてもらわなくてはいけない。
エンジェル税制を活用したいのであれば、事前確認制度に通った企業に投資するか、あるいは投資する前の交渉などで(エンジェル税制が活用できるか)しっかりと見定め、取り決めなければいけないだろう。
時間が掛かり、面倒な手続きというデメリットはあるが、エンジェル税制による節税効果は非常に大きい。
100万円投資をして、99.8万円も控除されるなら、面倒な手続きはあっても受けたい制度のはずだ。
「若い企業を応援したい」「ある分野の技術を伸ばしたい」など、エンジェル投資に興味はあるものの(大事な資金だという理由で)迷いがあるのであれば、エンジェル税制を活用してみては如何だろうか。