エンジェル投資家は「個人で活動する」イメージが強いと思われるが、アメリカなど先進国では、エンジェル投資家によるシンジケートが数多く存在する。
シンジケートは、エンジェル投資家になったばかりの人が経験を積む場としても活用されている。
国内ではまだ見られないが、シンジケートのような投資家同士の繋がりを作るサービスを検討している企業はある。
将来的に、国内でも普及する可能性が高い「シンジケート」について解説していこう。
エンジェル投資家のシンジケートのしくみ
エンジェル投資における「シンジケート」とは「共同出資」を意味する。
まず、一人のエンジェル投資家がリーダーとなり、エンジェル投資をする企業を選定する。
(目標資金に足りていない場合などに)リーダーの投資家が、一緒に出資をするエンジェル投資家を募集するといった流れである。
リーダーの投資家は、起業家の経営をサポートし、人脈作りに協力したり、起業家と交渉をしたり、報告を受けたりする役割を担う。
リーダー以外の投資家たちは開示された情報をもらうだけで、起業家との積極的な関わりは持たなくてもよい。
また、リーダー以外のエンジェル投資家たちに求められる資金はそれほど大きな額ではなく、その分報酬も少ない。
「AngelList」というアメリカのSNSでは、起業家がシンジケートを使って資金調達する場合、まずリードインベスター(投資家のリーダー)を見つけなければならない。
リードインベスター は自分がリードする投資案件への支援を表明している適格投資家(バッカー)に案件を紹介し、バッカーはリードインベスター からの情報を頼りに投資の判断を行う仕組みだ。
なお、アメリカの「適格投資家」は純資産100万ドル以上、または年収20万ドル(夫婦で30万ドル)と定められている 。
現在、先進国ではエンジェル投資家のシンジケートが 200以上存在しているという。
投資家と投資家を繋ぐことができ、投資家にも起業家にもメリットがあることで、シリコンバレーを中心にますます盛り上がっていくことが予想される。
VC・株式投資型クラウドファンディングとの違い
ベンチャーキャピタル(VC)や株式投資型クラウドファンディングにおける企業の役割を、シンジケートではエンジェル投資家のリーダーが担っている。
そこで生じる、VCや株式投資型クラウドファンディングとの違いを説明する。
VCと違う点
VCの場合、銀行と同じぐらい審査が厳しく、審査が通るまでの期間に3ヵ月近く掛かることがある。
経営指導を行ったり、ファンドの返還期限を設けたりするなど、リターンのプレッシャーが大きく、起業家にとってはなかなか苦しい道である。
エンジェル投資家のシンジケートの場合、リーダーとなる投資家によって審査される。
VCのように 、
①案件会議
②マネジメント・プレゼンテーション
③投資委員会
④会計および法務的デューデリジェンス
といった審査方法ではなく、あくまでリーダー個人の判断となる。
しかし、 リーダーの投資家が出資を決めても、他の投資家にも選択する権利があるので、人数や資金が集まるとは限らない。
VCの場合、(預けられた資金をすべてVCが管理するため)投資家が出資するかどうかを選んだり、出資する金額を簡単に変えることはできない。
シンジケートの場合、出資するかどうかは個人が決めることができ、出資額も自由である。
経営の干渉についてはリーダーの投資家が行う。
しかし、VCほど厳しくはないため、起業家にとって経営の自由度は比較的高いといえる。
株式投資型クラウドファンディングと違う点
株式投資型クラウドファンディングでは、投資家は出資先を選ぶ自由がある。
起業家には、VCほどの厳しい審査はなく、経営への干渉も余り行われない。
シンジゲートとの違いは、「1案件につき50万円以下」という少額投資の縛りがあることだ。
また、 シンジケートが (VCや) 株式投資型クラウドファンディングと異なるのは、投資家同士のつながりができることである。
(VCや) 株式投資型クラウドファンディングは、投資家たちから集めた資金を起業家に出資するため、投資家同士の交流はない。
株式投資型クラウドファンディングは、不特定多数の投資家がどの企業に出資を行っているかは分かるが、その意図を知ることはできない。
エンジェル投資家のシンジケートは、出資する企業を選定した理由や根拠などを見て、リーダーについて行くかどうか選ぶことができる。
また、同じ出資先を選んだ投資家同士での交流が可能である。
エンジェル投資家のシンジケートのメリット
アメリカの有名なエンジェル投資家ジェイソン・カラカニス氏も、エンジェル投資家になる時はシンジケートから参入することを勧めている。
初心者向きエンジェル投資であるシンジケートのメリットを見ていこう。
①少額投資から始められる
エンジェル投資家になるためには、多額の資金が必要だといわれている。
しかし、シンジケートでは大部分の資金をリーダーが出資するため、それほど多くの資金を求められることはない。
エンジェル投資家を志したいと思った時、シンジケートなら出資できる金額が少なくても投資家として活動を始めることができる。
例え多くの資金を持っていたとしても(経験もないのに)闇雲に出資してはいけない。
シンジケートを活用すれば、プロの投資家の考え方を学びながら、少しずつ出資をするという賢い方法も可能になる。
株式投資型クラウドファンディングも同じく少額投資であるが、「投資家として成長する」といった点では、シンジケートの方が将来性のある投資といえるだろう。
②信頼できる投資家のもとで経験を積める
シンジケートは「経験がまったくない」「良い起業家を見つけることが難しい」といった不安を解消してくれる。
信頼できる投資家のもとで、起業家を見る目を養ったり、投資家たちの考え方を学ぶことができるため、失敗やリスクを減らしながら、経験を積むことが可能である。
③手間や時間をかけなくてもよい
起業家との交渉やサポートなど、積極的な関わりはすべてリーダーの投資家が行う。
起業家に会う時間や書類の確認作業に掛かる手間を減らすことができるため、本業の片手間にエンジェル投資を行うことができる。
インターネット上で参加するシンジケートであれば、好きな時間に好きな場所からエンジェル投資が可能というわけだ。
④投資家同士の繋がりをもつことができる
投資家同士の繋がりを持つことで、スタートアップやベンチャーの最新ニュースやトレンドをいち早く把握することができる。
投資家は、情報を入手する速さやトレンドを正確に予測する能力が重要。
優秀な投資家たちは旬の情報を持っている人が多い。
リーダーの投資家がどこで情報を入手し、どのようにトレンドを予測するかを学ぶ機会になる。
情報を共有することができれば、最新ニュースに詳しくなる上、トレンド予測の精度も上がるだろう。
起業家にもメリットがある
経験や実績のない企業は資金調達が難しい。
出資をしてくれる投資家が見つかったとしても、詐欺まがいの投資家もいるため、簡単に投資契約を結ぶことはできない。
シンジケートであれば、信頼できるリーダーの投資家が優秀な投資家を紹介してくれるため、資金調達に掛かる時間や手間を削減できるというメリットがある。
多くの投資家に出資してもらうことになっても、株主名簿にはファンド名のみが記載されるため管理がしやすい。
投資家一人一人と交渉したり、承諾を得たりして回る必要がないため、事務的な作業を減らすことができる。
シンジケートは(VCと似た機能を持ちながらも)経営への干渉は少なく、リターンのプレッシャーが大きすぎることもない。
管理報酬も掛からないので、起業家にとっては資金調達のハードルが低いというメリットがある。
国内のエンジェル投資家のシンジケート
国内では「AngelList」のようなシンジケート機能を持ったWebサービスは存在しない。
共同出資という点で似たようなサービスといえば、株式投資型クラウドファンディングが挙げられる。
株式投資型クラウドファンディングは今後ますます普及すると予想されており、共同出資の機会が増えていけば、将来的にシンジケート機能を持ったWebサービスに注目が集まるのではないだろうか。
また、国内のマッチングサイト「ANGEL PORT」は「AngelList」のようなサービスに近づきつつある。
現時点では「AngelList」同様、エンジェル投資家がプロフィールやポートフォリオを公開し、起業家もまた出資してもらった投資家を公開するといった機能を持っている。
「AngelList」のようなサービスを目指し、シンジケートをつくる機能を持たせることが実現されれば、国内初のエンジェル投資のシンジケートが可能になるかもしれない。
まとめ
エンジェル投資家のシンジケートは一人のエンジェル投資家がリーダーとなり、他のエンジェル投資家を募集して共同出資を行うものだ。
シンジケートは起業家と投資家のどちらにとってもメリットが大きい。
起業家が感じられるメリットは、信頼できる投資家のリーダーが優秀な投資家を集めてくれることで資金調達がしやすくなること。
また、(VCと違って)厳しい審査がなく、経営の干渉も個人によるため、資金調達の手段として選びやすいことだ。
投資家の最大のメリットは初心者でも参入しやすいこと。
詳しくは以下の4つである。
①少額投資が可能
②リーダーであるプロ投資家から学ぶことができる
③インターネット上のシンジケートに参入した場合、手間や時間を掛けなくてもよい
④投資家同士のつながりによって、情報を速く得たり、トレンド予測の精度が上がる
このように、(シンジケートによって)エンジェル投資家になるハードルが下がり、エンジェル投資家同士の交流が活発化することで、エンジェル投資は盛り上がってきている。
国内で普及されれば、今のシリコンバレーのようになることもあり得るだろう。