エンジェル税制は起業家にもメリットがある!

エンジェル税制とは、創業して間もない未上場企業に投資をおこなった個人投資家へ、税制上の優遇措置をする制度である。

投資家にしかメリットがないと思われるが、エンジェル税制を活用することで投資してもらいやすくなったり、信用性の高い企業だと評価されるなど、起業家にとってもメリットがある。

エンジェル税制の概要や企業側のメリット、申請の手続きについて解説していく。

エンジェル税制の優遇措置

エンジェル税制を適用するためには、個人投資家・企業どちらにも必要な条件が細かく定められている。

必要な条件を満たし、手続きを完了させることで、エンジェル税制が適用される。

エンジェル税制が適用されると、個人投資家は投資した年と株式を売却し損失が発生した年、2つの時点で優遇措置を受けることができる。

投資した年に投資家が受けることができる優遇措置

投資した年に投資家が受けることができる優遇措置は「優遇措置A」と「優遇措置B」の2種類がある。

優遇措置A

創業(設立)3年未満の中小企業であることが条件のひとつ。

さらに、1年未満から3年未満まで、年数ごとに細かい規定がある。

主に、以下の要件が指示されている。

①研究者あるいは新事業活動従事者、常勤の役員・従業員の数

②営業キャッシュフローが赤字であること

③試験研究費が収入金額の3%を超えていること

詳しくは、中小企業庁のホームページ(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/angel/subject/index.html)を確認しよう。

優遇措置Aは、(エンジェル税制対象企業への投資額-2,000円)をその年の総所得金額から控除するもの。

ただし、控除対象の投資額には上限があり、総所得金額×40%あるいは1,000万円のうち低い方になる。

1,000万円を企業に投資した場合、(1,000万円-2,000円)=999.8万円が所得控除となる。

総所得が800万円の投資家が企業に1,500万円投資した場合は、優遇措置Aの上限に達し、総所得金額×40%が控除対象となる。

(800万円×40%)-2,000円の319.8万円が控除となる。

つまり、1,000万円以下の少額投資がおこなわれる場合、この優遇措置Aが適している。

優遇措置B

優遇措置Bの対象となる企業は、創業(設立)10年未満の中小企業であること。

また、こちらも1年未満、2年未満、2年以上~5年未満、5年以上~10年未満といったように、年数ごとに必要な条件を記載している。

優遇措置Bは、エンジェル税制対象企業への投資額全額をその年の他の株式譲渡益から控除するもの。

さらに、優遇措置Bには上限がない。

投資で生計を立てている個人投資家の場合は、優遇措置Bが適している。

株式を売却した時に投資家が受けることができる優遇措置

投資家がエンジェル税制対象企業の株式を売却し、損失が生じた場合、損失が生じた年の他の株式譲渡益と通算(相殺)することができる。

もし損失が生じた年に通算(相殺)できなかった場合でも、翌年以降3年に亘って株式譲渡益と通算(相殺)が可能。

なお、前述した優遇措置Aまたは優遇措置Bを受けた場合、その控除対象金額を取得価額から差し引いて売却損失を計算する。

エンジェル税制対象になる企業の要件

優遇措置Aや優遇措置Bにあった設立年数などの要件の他に、エンジェル税制対象企業に選ばれるために必要な条件が3つある。

①特定の株式グループからの投資の合計が5/6(約83%)を超えない会社であること

創業者本人、親族や関係会社など内部での株式が5/6以上を超えず、エンジェル投資家など外部の株式が1/6以上あること。

②大規模法人(資本金1億円超など)の子会社、グループ会社ではないこと

③未公開・未上場企業であり、風俗営業などに該当しないこと

エンジェル税制のメリット・デメリット

では、エンジェル税制対象の企業になると、企業側にはどのようなメリットがあるかを解説していく。

■信用性が高くなり、投資をしてもらいやすくなる

エンジェル税制には「事前確認制度」というものがある。

エンジェル投資家と契約する前に、あなたの会社が前述した3つの要件と、優遇措置Aまたは優遇措置Bの要件を満たしているかを調べることができる制度である。

エンジェル投資家が投資を避けるのは、株式のほとんどを内部者が保有している会社や風俗営業など法律違反しかねない会社である。

この事前確認制度を受けることで、信用性が高い企業であることが証明され、投資家に投資をしてもらいやすくなるというわけだ。

■投資家との出会いにつながる

さらに、事前確認制度を受けた企業は、中小企業庁のホームページに会社名・所在地・電話番号・ホームページのアドレスなどが公表される。

中小企業庁のホームページを見た投資家から声を掛けられる可能性が高くなる。

または、自社ホームページなどで事前確認制度を受けたことをお知らせするのもよいだろう。

信用性の高い企業であること、且つ投資家の経済的な負担やリスクを減らせることがアピールできる。

投資家の目に留まりやすくなり、新しい出会いにつながるだろう。

では、企業側のデメリットは何か。

エンジェル税制申請の手続きが煩雑であることが挙げられる。

提出書類が多いために手間を要する。

申請が完了するまで1ヵ月ほどの時間が必要。

それらの理由でエンジェル税制を活用していない企業は多い。

しかし、申請は各都道府県の経済産業局でできるようになっており、郵送でも可能である。

少しではあるものの、業務の改善が進んでいる。

企業を存続させ、発展させていく際、資金調達をしなくてはいけない時が必ず来るだろう。

銀行の融資が受けられなかったら、エンジェル投資家を頼るかもしれない。

その時、「投資家と出会う機会が増える」「投資をしてもらいやすくなる」というのは、手間や時間以上に大きなメリットになるはずだ。

事前確認制度を受けるには?

「事前確認制度」 とは、 資金調達前にエンジェル税制対象企業であることがわかる制度。

事前確認制度を受けるためには、以下の書類を各都道府県の経済産業局へ提出する。

(提出した書類が受理され)エンジェル税制対象企業であることが認められると、「事前確認書」が交付される。

なお、事前確認書はその事業年度のみ適用される。

そのため、次年度になると再び事前確認制度を受けなければいけないことを留意しておこう。

主に必要な書類

・確認申請書

・定款

・登記事項証明書(原本)

・貸借対照表

・申請日における株主名簿

・従業員数を証する書面

・組織図

・研究者・開発者の略歴、担当業務内容

・損益計算書および営業報告書(設立後最初の事業年度を経過している場合のみ)

・基準事業年度の直前の事業年度に提出した確定申告書別表二の写し(設立後最初の事業年度を経過している場合のみ)

優遇措置Aの適用に必要な書類

優遇措置Aの要件をクリアしている企業であるかどうかを確認するためには、主に必要な書類の他、以下のものを追加して提出する。

■設立後1年未満・設立後最初の事業年度を経過していない企業

・事業計画書

・法人設立届出書の写し

■設立後1年以上3年未満・設立後最初の事業年度を経過している企業

・設立の日における貸借対照表

・設立後の各事業年度における貸借対照表及び損益計算書

・設立後の各事業年度におけるキャッシュ・フロー計算書

・税理士が署名した確定申告書別表1(1)の写し、および法人事業概況説明書

事前確認制度を受けたら、資金調達後の手続きはどうなる?

事前確認制度を受けた場合、定款、登記事項証明書などの提出を資金調達前にしたというだけで、事前確認制度を受けていない企業と手続き自体はほぼ変わらない。

まず事前確認書のほか、確認申請書、特定中小企業者の要件に該当する旨の宣言書の提出を求められる。

また、エンジェル投資により、個人投資家が株式を取得した場合は、5つの書類を追加して提出する。

①取締役による決定があったことを証する書面

②株式申込証の写し

③払込があったことを証する書面の写し

④投資契約書の写し

⑤払込日における株主名簿

必要な書類をすべて提出すると「経済産業大臣からの確認書」が企業に交付される。

そして、経済産業大臣からの確認書と合わせて、「投資家がエンジェル税制の要件を満たしていることの確認書(企業作成)」、「株式異動状況明細書」の3つを個人投資家に交付しなければいけない。

この3つを個人投資家が確定申告の際に提出することによって、手続きは完了し、エンジェル税制が適用されることになる。

まとめ

エンジェル税制は、未上場企業などに投資をした個人に税制上の優遇措置を与える制度。

ただし、この制度を受けるためには個人、企業どちらにも要件がある。

企業が要件を満たしているかどうかを資金調達前に調べる方法が「事前確認制度」だ。

(事前確認制度を受けて)エンジェル税制対象企業であることがわかっていると、信用性が高い企業として評価されるため投資をしてもらいやすくなる。

その上、中小企業庁のホームページに会社名・連絡先などが掲載されるため、新たな投資家を呼びや込みやすくなり、投資家と出会う機会が増える。

事前確認制度を受けてエンジェル税制を適用するためには提出する書類が多く、手続きに多くの時間や手間が掛かる。

しかし、資金調達は企業を発展させていくために重要だ。

銀行の融資がおりなかった場合、エンジェル投資家を頼るしかなくなるかもしれない。

そのような時、投資をしてもらいやすい状況にあるというのは(手続きに掛かった手間や時間よりも)大きなメリットになるのではないだろうか。