エンジェル投資家: 2017年4月アーカイブ

ベンチャー(VB)に個人で資金を出すエンジェル投資家が増えている。IT(情報技術)・ネット事業で成功した30、40代の起業家が投資し、経験を基に助言する。後進の起業家を創業期から支援するサイクルが日本でも回り始めた。ベンチャーキャピタル(VC)と並び、VBのエコシステム(生態系)の一翼を担う存在となりつつある。

人工流れ星開発

小さな潜水艇のような真空タンクの中で、直径1センチほどの玉を秒速60メートルで打ち出す。人工流れ星を開発するALE(エール、東京・港)がJR和歌山駅から車で約20分の住宅地にある工場で進める実験の一場面だ。実際の宇宙では人工衛星から発射した玉が大気圏で燃え人工の流れ星となる。花火のようにイベントでの利用を想定し2018年の実用化を目指す。

創業者の岡島礼奈社長(38)は東京大学で天文学の博士号を取得。ゴールドマン・サックス証券を経て「人工流れ星は宇宙の基礎研究にも役立つ」との思いから11年にエールを設立、15年4月に本格始動させた。

ところが、世界で前例のないビジネスへの理解を得るのは難しく資金が集まらない。岡島社長は「多くのVCから投資を断られた」と振り返る。

救いの手を差し伸べたのがエンジェル投資家だった。16年12月までに計7億円を調達し、当面の開発費に充てている。個人で投資した米系運用会社ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント社長の桐谷重毅氏(54)は岡島社長の元上司で「夢のような事業を手助けしたい」と話す。

エンジェル投資家の存在感が国内で増している。経済産業省によると、エンジェル税制を使った投資額は15年度に25億円と過去最高を更新した。エンジェル税制は書面の手続きが煩雑でメリットも小さいなどとして利用しない投資家も多く、「実際の投資額は数百億円に上る」と同省の石井芳明新規事業調整官はみる。国内VCの年間投資額1302億円を追いかける状況だ。

けん引役は00年以降に起業し新規株式公開(IPO)や会社売却で大きな利益を上げた30、40代の起業家たち。自らの経験を生かし、ベンチャーの評価が定まらない創業期に資金の出し手となる。VCと異なり個人の判断でリスクを負って投資できる。

資金面だけではない。自らの起業経験を投資先に伝えられるのもエンジェル投資家ならではだ。創業前から具体的な助言でベンチャー経営者を支える。

「ウェブマーケティングをするにはどうしたらいいか」。東京・田町のオフィスビルの一角。有力VBに成長した家計簿アプリのマネーフォワード(東京・港)創業メンバー、滝俊雄取締役(35)は深刻な表情で相談していた。

相手は習い事仲介サイトを運営するコーチ・ユナイテッド(東京・渋谷)創業者の有安伸宏氏(35)。滝取締役とは大学時代の同級生で、マネーフォワード創業初期に数百万円を投資した。滝取締役は「起業経験者の知識やノウハウは大きい」と信頼を寄せる。

有安氏はユニリーバ・ジャパンを経て07年にコーチ・ユナイテッドを起業。13年に全株式を料理情報サイトのクックパッドに売却して個人投資を始めた。「ネットビジネスは勝利の方程式があり、つまずくところはどの起業家も同じ。私が助言することで落とし穴を回避できる」。マネーフォワードのほか、母親向け相談アプリのコネヒト(東京・港)など約30社に投資している。

元コロプラ副社長の千葉功太郎氏(42)は年2回、投資する約40社のVB関係者を集めた合宿「千葉道場」を開く。経営について勉強するだけでなく、共通の課題や今後の成長について議論を重ねる。千葉氏は「起業家は孤独。悩みを相談できる仲間をつくることが目的だ」と説明する。

VCのようなファンド運用の期限がないため、出口戦略を急がず長期的な視点でVBを支援できる強みもある。ソフト開発のNOTA(ノータ、京都市)は07年の創業。経営危機を何度も乗り越え、画像や文書の共有サービス「ギャゾ」が世界で850万人に使われるまでに成長した。創業から資金を提供し続け、陰で経営を支えたのがディー・エヌ・エー(DeNA)共同創業者の川田尚吾氏(48)だ。

失敗許容の文化

川田氏は「エンジェルは自己責任のため投資の自由度とスピードが違う」と言い切る。

米国のエンジェル投資額は年3兆円規模に上る。VCが投資に二の足を踏む独創的なアイデアにも資金を出し、失敗を許容する文化が根付く。米配車アプリ大手ウーバーテクノロジーズの創業者も3度目の起業で成功をつかんだ。

エンジェル投資家が増えれば、起業のエコシステムは強固になる。日本のVCには年金基金などの安定した機関投資家による投資が少ないため、08年のリーマン・ショック後はVB投資額が大幅に落ち込んだ。VC頼みでは今後も金融情勢や株価で投資額が大きく左右されるリスクを抱える。

なぜエンジェル投資家は一生生活に困らないほどの巨万の富を築いたにもかかわらず、わざわざ手間のかかる後進の育成に携わろうとするのか。千葉氏は「投資のリターンを得るよりも自分がお世話になった業界に恩返しがしたい」と話す。他人を思いやる「ペイ・フォワード」の精神が起業家育成のサイクルを回している。

本田氏が数億円

「プログラミングを通じてみなさんの夢がかなうのを祈っています」。2016年12月のクリスマス。教育ベンチャー(VB)のライフイズテック(東京・港、水野雄介社長)が都内で開いた中高生向けプログラミング教室でサッカー日本代表の本田圭佑選手のビデオメッセージが流れると、700人の参加者から歓声が上がった。

実は本田選手はライフイズテックに投資する個人投資家の1人。16年8月に米国でKSKエンジェルファンド(カリフォルニア州)を設立した。ファンド規模は自己資金で数億円。パートナーを務める中西武士氏は「本田は教育をライフワークとしている。次世代に有益な事業をしているベンチャーに対し1社当たり500万円程度、月1件のペースで投資していきたい」と説明する。

サッカー日本代表の本田選手が投資するプログラム教室運営ベンチャー、ライフイズテックの授業

エンジェル投資家は起業経験者だけではない。スポーツ選手や芸能人など異なる業界で成功した人にも裾野が広がってきた。お笑いコンビ、ロンドンブーツ1号2号の田村淳氏は個人のネットショップ開業支援のベイス(東京・渋谷、鶴岡裕太社長)など4社ほどに投資。お笑いタレントの「厚切りジェイソン」として知られるジェイソン・ダニエルソン氏はIT(情報技術)企業テラスカイの米国法人副社長をしながら投資活動し、昨年主婦向け情報サイト運営のウィルゲート(東京・渋谷、小島梨揮社長)に出資した。

成功者への批判

VBにとって有名人から出資を受けることは広告面で利点が大きい。ライフイズテックの水野社長は「本田選手効果で様々なメディアに取り上げられ、多くの人に知ってもらえた」と話す。今後は本田選手が運営するサッカー教室との連携を深める考えだ。

米国ではハリウッドスターや有名スポーツ選手によるベンチャー投資は一般的。革新を生み出す「セレブ投資家」として若者から尊敬される存在となっている。成功例では俳優アシュトン・カッチャー氏が有名で民泊仲介大手のエアビーアンドビーなどに投資し、巨額の収益を得ている。元プロバスケットボール選手のコービー・ブライアント氏は引退後に1億ドル(113億円)規模のファンドを立ち上げた。

日本では投資活動を公言する有名人が少ないのは「成功者がさらにもうけようとしている」という批判を恐れているからだという指摘がある。資産を寝かせず、若い起業家に投資をすることで新しい産業を生み出していく。そのために投資に対する認識を改める金融教育が求められている。

考え方に刺激受ける ロンブー・田村淳氏

きっかけは政財界の人とラジオ番組を始めたことだった。政治家や起業家と会うようになり、ものの考え方や思考の速さが大きな刺激になった。

実はテレビ業界は古い感覚の人が多い。我々は情報を発信する側なので新しい感覚を持たないと取り残される。起業家と会うのは楽しい。今では芸能界の人とは一緒に食事に行かなくなった。

5?6年前に起業家の家入一真さんからベイスへの投資を誘われた。その前に株で失敗していたので最初は後ろ向きだった。だがベイスのサービスが広がれば誰でも簡単にネットショッピングができる時代になる。私が出すお金で若い起業家が奮い立って世の中を変えるなら、銀行に眠らせるより意義があると投資を決めた。投資先には「私のことを利用してください」と伝えている。ツイッターでのつぶやきなど協力はいとわない。

日本の芸能界で投資を公言している人はあまりいない。だが既得権益を守り続けるばかりでは新しいものを生み出せないだろう。テレビが衰退しているのは若者に文化を提供できていないからだ。そこに風穴を開けたい。そのためには絶対に成功しないといけない。

投資家の人間性見極め 仮屋薗聡一氏

ITブームで成功した日本のエンジェル投資家はソフトバンクグループの孫正義さんが第1世代。第2世代は楽天の三木谷浩史さんやサイバーエージェントの藤田晋さんで、第3世代はミクシィの笠原健治さんら「ナナロク世代」だ。

最近は13?14年に成功した第4世代が育っている。起業家育成という視点でみると、お金より経験に裏付けされた助言を受けられることが大きい。

セレブ投資家と呼ばれる芸能人など異業界の投資家も目立つようになった。有名人から投資を受けることの最大の利点はその人の広報力を生かせること。多くのベンチャーは無名で、テレビCMを流すだけで数億円が必要だからだ。

セレブ投資家から投資を受ける際は信頼できる人間かを見極める必要がある。

(日経電子版より)

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25歳で広告代理店を起業。2008年に41歳でGMOインターネットグループに売却した後、東南アジアへ拠点を移し新たなスタートを切った加藤順彦。現在は19社に参画するエンジェル投資家として、日本の未来の発展を支える起業家たちの育成に力を注いでいます。そんな彼が出資する経営者とはどんな人なのでしょうか。

Jetstarでカンボジアに向かう最中、シンガポールのチャンギ国際空港でお話を伺いました。

ライブドアショック後、シンガポールでエンジェル投資家に

私は25歳で起業して、2008年、41歳まで16年間広告代理店を経営していました。会社を辞めたきっかけは2006年1月のライブドアショック。インターネット系企業の株が全部大暴落したんですよ。

その煽りを受ける形で僕の会社も倒産しかけたとき、GMOインターネットグループさんとの買収のお話がまとまりました。このままでは倒産も視野に入れかねない時期だったので、GMOさんから救済措置を受けたような状態ですね。

ただ、日本のITベンチャーが総崩れとなったことには変わりません。これまでビジネスの相手であった彼らが世間から否定され、僕自身の頑張りも同様に否定されたように思い、非常に大きなショックを受けました。

シンガポールで再起を図る

このままではまずいと感じて考えたのは、東南アジアへの移住。場所を移すことで、別の希望を見つけようと思ったんです。

なぜ東南アジアかというと、当時世界の一流企業たちがこぞってアジアを目指していたからですね。事実、当時アメリカで「ビッグ5」と呼ばれていたAmazon、Yahoo!、Microsoft、Google、e-Bayの中国を除くアジアの本部は、みんなシンガポールにありました。立地の問題や国が企業の誘致に力をいれていたためです。ビジネスが集まっている場所にはチャンスがあると考え、2008年にシンガポールに移ろうと決めました。

19社の資本と経営に参画

今はシンガポールを拠点に、東南アジアで起業する日本人の事業の資本と経営に参加していて、自分ではエンジェル“事業”家と呼んでいます。単なる投資家ではなく事業そのものに関わるのは、そのほうが楽しいから。自分が一緒になって汗をかいてお金儲けをしたい、利益を出したいと思える会社に自分で資本参加して、ボードメンバーに入れてもらっています。

今参画している19社。僕は役員会や経営会議だけ参加して、19社のうち半分以上は月に1回以上社長とミーティングをしています。経営課題ってだいたいヒト・モノ・カネのどれかなんですよ。参画したら基本的にどう考えるべきなのかというところから社長と一緒に考えています。

椅子が増えていく椅子取りゲームに参加できることが魅力

シンガポールは人口約550万人(※2015年6月現在)と内需が非常に小さい国です。一方で観光客は延べ人数で約1200万人(※2014年現在)。日本人の場合、ターゲットにしやすいのは日本人です。そのため、ビジネスのターゲットはシンガポール人よりも日本人観光客や3.5万人の日本人在留者のほうが当初はやりやすいでしょう。

日本人を対象にするならなぜわざわざシンガポールに行くのかと思うかもしれません。でも、ビジネスをするうえで大切なことはどこに成長があるのかということです。東南アジアやインドは毎年10%というものすごい勢いで成長している、世界でもほぼ唯一の場所。しかもそれが今後10年続くと言われています。すでにあるパイを取り合う椅子取りゲームではなく、椅子そのものが増える椅子取りゲームに参加出来る可能性があるのは魅力的ですよね。

どんな商売をすればいいかという判断基準はふたつあります。ひとつは自分がやりたい仕事。もう一つは成長出来る仕事。今の日本で言うと、インバウンドや高齢化産業はものすごい勢いで成長しています。僕は起業家の皆さんに「好きな商売なのか、伸びる商売なのかどっちですか?」と聞きます。この問いには正解がありません。しかし、どんな商売で誰がお客さんとなるのか、といったことは常に社長と話しながら一緒に解を求めていく作業を日々やっています。

エンジェル“事業”家の考えるシードで成功する条件とは?

一般的にスタートアップにはいくつか段階がありますが、今参画している19社のほとんどは事業としてまったくゼロの段階かシードというごく初期の段階で参画しました。会社設立前から社長と話し合い資本構成、本社地、会社名などを考えるケースもありますし、シードならお金をどういう名目で、誰から、どれくらい集めるかという、資本政策から一緒にやっています。
シードとは

ベンチャー企業における成長ステージのうち、会社設立前の準備段階または会社設立直後の最初期を指す。ビジネスの構想やアイデアを事業化するために、企業や起業家が開発や調査などを進めている段階であるケースが多い。

初期メンバーの3人にビジョンが共有されていること

なぜ初期段階にこだわるかというと、最初のメンバー集めがすごく大事だから。最初の3人に社長のビジョンやなぜこの商売か、会社を興した意味とかがきちんと伝わっているチームは強いです。チーム作りが出来ていれば、意思決定のスピードも早いですからね。

スタートアップやベンチャー企業では、どんどん状況の変化が起こります。そのため、社内メンバーのコンセンサス、つまり会社のムードや仕組みが整っていることが大切です。意思決定が早くて、「社長がこう言っているからそうしよう」とか、あるいは社長がみんなの同意を取るための仕組み作りが上手く出来ている会社はスピードが早いですよね。

経営者が視座の高さと志を持つこと

僕が出資や参加を決定する上で一番見ているのは、経営者の視座、つまりその人の志です。僕は長い間、広告代理店を経営していました。広告代理店は、出来たばっかりのよく分からない会社に売掛を作っていく商売。ビジネスが確立していない状態で投資をおこなうようなものです。

今やっていることも同じ。だからこそ、どのような問題解決をして、どのような人たちに幸せになってもらいたいのかという、起業家の思いの強さを見極めます。たとえ売掛を回収できなくても後悔しないか、というポイントも意識して、投資の是非を考えるんですよ。

「カンボジアの人へ働く喜びを与えたい」という思いに心を打たれた

僕の参画している「AGRIBUDDY」という会社の北浦社長は、カンボジアでスマートフォンを使った農業の生産管理システムを提供しています。今注目のアグテック(農業テクノロジー)ですが、彼はアグテックがイケてるからアグテックをやっているわけではありません。

カンボジアはGDPの40%が世界の国々からの寄付です。ほとんどのカンボジア人が農民なんですが、働かなくても食っていけるから発展せず他にやる仕事もない。生活を寄付に頼ってしまっているカンボジア人に、働く喜びや、ITを使って農業をもっと楽しく便利にできることを知ってもらいたいという想いからこれをやっています。

僕はそういうマインドに打たれて経営に参加することを決めたんですよ。

解決したい問題を考える経営者に味方をしたい

僕が出資して過去に上場した9社のうち7社は、僕が出資したときから上場したときで事業内容が変化しています。各論で商売の内容が変わっても、商売を通して達成したい夢や目標がぶれなければ、ピボットは容易ですよね。スタートアップはピボットが当たり前だと知っているから、実は各論にあまり興味ないんです。

エンジェルに味方してもらうのに一番大事なのは、どんな問題意識を持ち、どんな社会の問題を解決したいのか、を真摯に伝えることだと思います。

実績も社歴もないスタートアップに対して、仕事を発注しようという人、投資を検討する人はそこを見ています。大事なのはどんな商売をおこなうかよりも、経営者のビジョンなんですよ。

加藤順彦

エンジェル事業家 LENSMODE PTE LTD
1967年生まれ。大阪府豊中市出身。関西学院大在学中に(株)リョーマ、(株)ダイヤルキューネットワークに参画。1992年、有限会社日広(現GMO NIKKO株式会社)を創業。2008年、同社のGMOグループ傘下入りに伴い退任しシンガポールへ移住。2010年、永住権取得。2015年、マレーシアMM2H(長期滞在)ビザ取得。現在はシンガポールにて日本人の起こす企業の資本と経営に参画している。主な参画先は新興国でのバーチャル農協AGRIBUDDY、IoT家具製造のKAMARQ、採用ソリューションのSMS24/7、ビットコイン事業のビットバンク等。著書に『シンガポールと香港のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版社) 『若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録』(ゴマブックス)

(経営ハッカーより)

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