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顧客は営業マンの訪問は嫌なのか
7年連続の増収・増益を記録しているリコーは、消費不況のおり同業他社の垂涎の的だ。とはいえ、業績に貢献しているのは海外部門の好調で、国内での販売は厳しい。しかし、そんな中でも、この2年間、「バブル期並み」という好業績を維持する営業部がある。リコーの販売会社、東京リコーの城南営業部だ。
東京の山手と下町の要素が混在する城南地区──。ビジネス街があると思えば、昔ながらの町工場も高級住宅地もある、文字どおり、東京の縮図ともいえる地域だ。東京リコー城南営業部は53名の陣容で、品川区、大田区、目黒区、世田谷区をテリトリーとして法人営業に動く。
その感触を部長の山田雅之(44歳)は「いいですね。すごくいい。われわれは2000年に『新販売に挑戦!』をスローガンに、営業手法の徹底した改革を行いました。以来、売り上げも利益も2ケタの伸びですから。1998、99年の低迷期に比べたら1.5倍の数字になりますよ」と胸を張る。
こう話す山田には“負の原点”ともいうべき苦い思い出がある。城南営業部に赴任してきた98年当時のことだ。長年の得意先だった、品川区の中規模メーカーに納入していたコピー機5台が、そっくりライバル会社に引っくり返されたのである。予期していなかった事態だけにショックだったという。
「『もうリコーさんのような古い体質の会社は選びませんよ』と先方に言われました。ライバル社は、電子メールやインターネットを使いスマートに提案している。
『高い安いではありません。このほうが当社も楽なんです』と。いわば、私たちが大事にしてきた、お客さまへ日参する営業文化が否定されたのです。これは、やり方を変えないと大変なことになると震えがきました」
この案件だけでなく、当時は他社に顧客を奪われることが多く、敗戦状態だった。営業部内にある7つの営業所の売り上げも落ち込んでいた。
「98、99年というのは、多くの企業が職場にITを導入した時期で、業界としてはそんなに悪い時期ではなかった。しかし我々は、お客さまのそういう変化を読めず、今までのやり方で営業をやっていたわけです」
市場のニーズは構造的に変化しつつあった。コピー機などの単独ニーズから、社内システム構築の総合的な提案能力が期待されるようになったのだ。
「ものを売ろうとしても駄目。顧客の求めているものは何なのか、という顧客志向の営業へと、発想を転換することが必要だと痛感したわけです」
そのバックボーンのひとつは、99年にリコーが実施した、顧客企業へのアンケートだった。最も好ましい営業の手段を尋ねると、「訪問セールス」という答えが55%、「電話」が23%、「ネット」が22%だった。山田はこの結果を見て危機感を感じたという。「我々は100%足でやっていました。ということは、訪問がいいという以外の、45%のお客さまには私たちの営業は嫌がられていたのでは──」。
得意先のメールアドレスを集めろ!
改革の具体策として山田がまず注目したのは、インターネットだった。前出の品川の会社をはじめ、「メールしてくれたほうが助かる」という声を多く聞いたのだ。「今までのやり方よりメールによる対応を望む顧客が増えているのは間違いないと感じていました」と山田は振り返る。1979年に入社。城東地区を皮切りに、台東営業所で営業マンとしてのスキルを磨いてきた経験がいわせる実感だった。
そこで、山田が発した指示が「得意先のメールアドレスを集めろ!」だった。2000年1月のことである。
およそ1万5000の顧客を持つ同営業部だが、営業マンの手元にある名刺を改めて見たところ、300社ほどの名刺がすでにアドレスを刷り込んでいた。インターネットが予想以上に浸透していることに気づかされた山田は、全営業マンに得意先関係者との新たな名刺交換を指示した。その結果、2月末までに約800件が確保できた。
もともと、リコーの営業は大手企業だけでなく中堅・中小を多く顧客に持つことから、顧客企業との濃密な人間関係を大切にする“熱い”体育会的なノリを持つ。このことは本社社長の桜井正光が提唱する、「火のように燃えて挑戦し続けよう」という企業理念「ファイア文化」にも通じる。城南営業部のトップセールスで大井営業所係長補佐を務める貝崎圭介(37歳)も、その社風を体現した一人だ。
とにかく貝崎は、メールアドレス入手に走り回った。「最初は半信半疑でした。私たちも、名刺にアドレスが刷り込まれたばかりでしたから。ところが、20数件に確認すると、約半分が持っていた。えっ、こんなところでパソコン使ってたの、という感じでした」と驚きを隠さない。もともと負けず嫌いの貝崎は、ビジネスチャンスをむざむざ潰してしまったと悔しがる。「本来ならリコーが売ることができたはずのパソコンを取られていたんですからね」。
しかし、確かに顧客はインターネットでの取引を求める意思をかすかながらも示していたのである。
こんなことがあった。ある得意先を貝崎が訪問すると、顔見知りの社員が「貝崎さん、タイミング悪いよ」と言う。欲しい品物があり、他社がメールで送ってきたカタログの中にそれがあったので、渡りに船とばかりに購入したというのだ。完全なチャンスロスだ。また、小規模な企業のトップから「恥ずかしいけれど、Eメールについて教えてくれる? 今さら社員にも聞けないし」といった相談を個人的に受けることもしばしばあったという。予想以上にネットやメールは受け入れられていたのだ。貝崎にしてみれば、ちょっとしたカルチャーショックだったろう。
こうした思いは山田も同じだった。「この作業を通じて、実は顧客のことをあまり知らなかったのだと気づいてくれたはずです」。では、次の一手は何か。山田は実にうまい指示を出した。「物を売るな。顧客を調べてこい!」と。
会社の規模や業績、業界での位置付け、コンピュータ環境とその問題点、さらに担当者についても調べた。顧客が必要なシステム提案を、顧客が望むタイミングに、顧客が求める手法でアプローチするためだ。
面白いのは、購入決定権を持つ担当者の年齢を明記させたことだ。あまりにも高齢だとコンピュータネットワークのメリットやシステムを説明しても理解できず、成約には結びつかない。最もダイレクトに反応してくるのは30代後半から40代の管理職である。彼らの理解を得て、購買意欲が高まるよう効果的な営業を仕掛けていく。
城南営業部でのIT導入は決済など事務のスピード化という副作用も招き、それが顧客満足に直結した。山田の号令のもと意識改革を図った2000年、同営業部は2ケタの増収増益となる。
コピー機5台を奪われた品川の会社から受注を取り返すのにも時間はかからなかった。「このお客さまにはどうしても認めてほしかった」と語る山田は、契約が切れた後も担当営業マンを通わせ続けた。待ちに待った次回買い替えの知らせを受けた同営業部の対応は迅速だった。提案するシステムの構築から検証、見積もりまでをまとめ上げ翌朝一番に回答。他社の回答を待たずにリコーが受注した。
商品力が強い今こそ営業力を磐石に
ITの威力を実感した貝崎だが、基本はやはり足での訪問だと言う。
「普段の人間関係がうまくいっていないと、いきなりメールを送っても読んでもらえません。まず読んでもらえる人間関係の構築が大前提です。私にしても得意先であればあるほど、会わないと不安になります。実際、1日の訪問件数は今も30件ぐらいで、それほど変わらないんです。ただ、無意味な訪問がなくなり、営業の質がかなり高くなっていますよ」
貝崎は、新人の時代は1日100件の訪問をこなした。その意味で“ドブ板セールス”は、彼のDNAに染み込んでいると言えるだろう。そこに、ITという近代兵器が加わったと思えばいい。しかも、それは貝崎に新しい営業の醍醐味を味わわせもした。「顧客に合わせて考えたシステムを提案して、発注を受けたときは本当に嬉しかった。これまでとはまったく違った成約でしたから」と言う。
ライバル社の脅威について尋ねてみると「現場で、他社の営業さんとあまりバッティングしません。お客さまに話をきいても『担当がわからない』とか『あまり来ない』という声もききます。商品のブランドに頼って営業努力を怠ったのでは」と、自信が窺われる。貝崎は昨年の4月から年末までで、現在の主力商品である多機能プリンターを30台売り切ったという。
城南営業部の改革は、従業員満足という点でも、思わぬ結果を生んだ。地を這うような訪問活動を繰り返していたときとは違い、無駄がなくなり商談の効率がよくなった。社内でトップクラスの営業成績を挙げながら、「以前より早く帰宅していますし、お休みも多くいただいています」と、貝崎は、趣味のロングボードで日に焼けた顔をほころばす。
城南営業部が、好業績を維持しているのは、これまで培ってきた筋金入りの営業マン魂と、IT戦略も導入した徹底した顧客志向が相乗効果を生んだといえよう。が、絶えざる改革への意思も窺い知れた。
「もちろん、さらなるブラッシュアップはあたりまえです。顧客の要望に応えるため、今後も、我々は変革を続けていきますよ。今は、リコーの商品力も他社と比べて強い。有り難い武器を戴いているうちに営業力を磐石にしたい。負けませんよ」と山田は自信をのぞかせた。
(PRESIDENT2002年3.4月号より)
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1996年11月に立ち上げられた小仲律子(31歳)の「Cave de vin 小仲酒店」は、ワインに関するホームページのパイオニア的存在といえる。
「酒屋のおじさんって、仕事のとき、メーカーからもらったジャンパーを着る人が多いでしょ? そういう美意識には小さい頃から耐えられへんかった。そやから親には『ブティックみたいなお洒落な店やったらやってもいい!』と突っ張っていました」と語るように、小仲のホームページはお洒落感覚に満ちている。
その最たる例が「ワインと音楽」。
「このワインを飲むときはこのCDを聴きながら!」と、それぞれのワインに合った音楽を紹介するユニークな企画だ。ほかにも「今月のおすすめワイン」や「お父さんのためのワイン講座」など実用的なコンテンツも人気が高く、現在、ワイン通信の登録者は3200人。一日のヒットが1700~2000。月額200万~300万円の売り上げを誇る。
小仲が家業を継ぐまでには紆余曲折があった。高校卒業後、米国の短大に入学。卒業後は東京の商社に就職した。バブル末期で給料も高かったが、仕事自体は全然面白くなかった。
その頃、二人の兄は医学系の学校に進み、父・康夫にとって、跡継ぎは彼女しかいなくなってしまっていた。
「仕事を辞めて習い事でもしたいなと思っていたとき、父に『サントリー・フードビジネススクールに行ってみないか』と誘われて……」
92年、小仲はスクールに通うため関西に戻り、1年でワイン・アドバイザーの資格を取得。彼女はついに家業を継ぐ決心を固めた。
2年間フランス語を習い、25歳のとき、フランスのボルドーの商工会議所の教育機関(I.P.C.Vins)に入学。帳簿の付け方やワインの管理、醸造学に至るまで、ワインに関するあらゆる知識と経営学をみっちりと叩き込まれた。そして、95年、プロとしての本格的な知識を身につけた小仲が帰国してみると、店の経営はかなり悪化していた。お洒落な店づくりどころか、店の存続の危機に直面してしまったのである。
そんな彼女が、初めてインターネットと出会ったのは96年6月だった。
「知人に近所のインターネット・カフェに案内されたとき、遊びで、大好きやった音楽劇『ロッキー・ホラー・ショー』を検索してみたら、ファンクラブが世界中にぶわーっと出てきたんです。かなり興奮して、『これは商売にも使える!』って直感しました」
商社時代からマックを使いこなしていた彼女は、同年11月に独学でホームページを立ち上げた。初めのうちこそ反応は少なかったが、その後のネットブームもあって、売り上げは着実に伸びた。
現在では、店の総売り上げのおよそ四割をネット販売が占めているという。
モール出店から1年で、月商1800万円達成
99年2月26日にショッピングモール「楽天市場」へ出店した「ワイナリー和泉屋」は、参加してまだ1年余りという短期間で、今年4月の販売実績が約1800万円、販売個数約3000個、アクセス数15万強という実績を挙げた。
「売り上げの5~6%だったワインが、今は50~60%を占めています」
と語る取締役の新井治彦(42歳)だが、実は、意外なことに、もともとワインが好きではなかったという。
高校、大学時代は剣道、大学卒業後はスキーに打ち込むスポーツマンだった新井は、88年、29歳の結婚を機に、家業を継ぐことを決意。当時、コンビニエンスストアに貸していた店舗を直営店にし、酒販店免許を返してもらって店の裏の倉庫で酒店を再開した。
「どうせやるなら新しいやり方で……と、ディスカウンターを始めました」
当時はまだ、酒屋のディスカウンターが珍しかったこともあり、売り上げは前年比20%の伸びを続けた。が、数年も経つと、伸び率は下がった。
「地域密着型だから、結局、売り上げは横這いになりました。そうなると、『ディスカウンターはあまり面白い仕事じゃないな』と思い始めて……」
そんなとき、新井は店を訪れた同業の社長から「ワインが何もないね」と言われた。「それまでは結婚式で使う大量生産の美味しくないワインしか飲んだことがなく、『ワインってまずいな』と思ってました。だから、彼の"何もない"という言葉がどういう意味なのかわからなかった。そこで、それからは少しずつワインの勉強を始めました。今から7、8年前のことです」
同じ頃、ある大きな会社の在庫整理で高いワインを大量に安く入手できた。安く買えれば自分でも高いワインを飲む機会が増え、その味を知るにつれ、
「高価なワインなら美味しいんだな、と思えるようになったんです」。
いつしかワインの世界に魅了されるようになった新井は96年、手作りの「ワイン便り」を顧客300人に発行しはじめた。ディスカウンターのノウハウを駆使し、高いワインを安く提供する和泉屋の噂は口コミで広がっていった。
「コツはつねに仕入れ先のお得意リストの3位以内に入ること。そうすればいいものを優先的に安く回してくれる」
そして、2年後の98年1月、彼はネットと出会う。
「まぐまぐでワインのメールマガジンを出していた友人から『値段が安くて美味しいワインは?』と相談を受けて、これに答えると、今度は『どこに売ってるんだ?』となっていったんです」
新井も同年10月にまぐまぐに登録。メールを出し、注文を受け、振り込みを確認して商品を送るという販売を始めた。最初は500人だった読者は12月に1000人を超え、売り上げも約200万円に上った。
そして、99年1月、オフ会で「楽天市場」の存在を知った。
「家賃5万円は高いと思いました。でも、10万円近くかかるワイン便りをやめればなんとかなるな、と」
商品の紹介メールを頻繁に送ったり、毎月の売上高を公表して信用を得るなどの商売人としての熱意が、月2000万円近くの売り上げへと結びついたのである。
「売るだけではない」本物のワインサイトが目標
"商売"よりも"お洒落"にこだわってネットを始めた小仲。彼女は2000年4月、父と共にWeb管理・コンサルティングの有限会社「まるや」を立ち上げ、eビジネスのさらなる拡充を図る。
「米国にはワイン・ドットコムというワインのポータルサイトがありますが、日本にはまだ本当に充実したワインのサイトはありません。やり方次第でもっといけるかなと思っています」
ディスカウンターとしての商人魂でワインのネット販売力を伸ばし続けてきた新井。彼は今、既存のメルマガを"ワイナリー和泉屋とフード・コーディネーターの根本友子の「ワイン大好き」"としてバージョンアップさせることに力を注いでいる。
「ワインの紹介や食べ物とのマッチングなど、純粋にワインの世界を楽しんでもらうためのホームページです。販売はリンク先の楽天で行います。これからの理想は"ブランド"ではなく"パーソン"。もっとワインを勉強して『新井さんが選んだワインなら飲んでみたい』と言うお客さんを増やしたいんです」
お洒落なブティック酒販店を夢見た少女はワインのネット・ビジネスのパイオニアとしてさらなる事業拡張に挑み、ワイン嫌いの元ディスカウンターは"ワインの伝道師"の道を歩み始めた。出発点の全く違う小仲と新井が、なぜか今、二人のネット・ビジネスは、あたかも「ワインの遺伝子」のように、2本の螺旋の束となって、響き合い、絡まり合いながら、新たな次元を目指そうとしているかのように見えた。
(PRESIDENT2000年5.29月号より)
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インターネットに客との対話はあるか
和菓子とは伝統的な技巧の産物、一期一会の精神で売られるもの、というイメージが強い。だから、「菓匠 白妙」のホームページを見つけ、そこでネット通販を行っていると知って驚いた。しかも、店主の高橋弘光さん(44歳)は、テレビ東京系の人気番組「TVチャンピオン」の「全国和菓子職人選手権」で5連覇を成し遂げた"名人"であった。
1985年創業、「白妙」の店舗は千葉県船橋市、北習志野駅前の商店街にあるが、高橋さんが菓子作りに専念する「菓志巧房」は隣接する八千代市の、のどかな田園風景の一角にある。合わせて従業員は7人、パート8人だ。
仕込みの最中、白衣姿で現れた高橋さんに、和菓子とネットという意外な組み合わせについて聞くと、「ホームページで和菓子が売れるとは思っていないし、売りたいとも思っていませんよ」と、淡々とした言葉が返ってきた。
「全国から注文が来るようになって、96年からホームページ上でネット通販を始めたのですが、ホームページは、もともと電子広告程度のつもりだったんです。求人もできるだろうと。ネットでさまざまなところにアンテナを広げたい、という気持ちはありますが、これを見てウチのお客になってもらう、というところまではいっていません」
知り合いに頼んだこともあって、ホームページの運営コストは月3000円で済んでいる。しかし、発送の手間ひまなどを考えるとネット通販はまだ採算が合わない、という。しかも、菓子の宿命として、通販そのものが難しい。高橋さんもクール宅配便などで何度か試してみたのだが、輸送中の振動や温度・湿度などの変化によって、生菓子は型崩れしてしまうし、干菓子も割れてしまうとか。通販で扱える商品は羊羹などに限られるのだ。
こうした事情もあり、ネットによる注文は現在は月に10件程度。年商1億円のうち、ネット通販の売り上げは「まだほとんどない状態」という。このように物理的な限界があるから、ネット通販に過度な期待はしていないようだ。だからといって見限っているわけでもない。高橋さんは店舗販売とネット販売を完全に切り離して考えている。
店舗販売は客との接点が命。
「和菓子は、寛ぎの時間や癒し、喜びも一緒に売るもの。店ではそうしたことも含めて、きちんとお客様に説明しながら売ります。なかなか理解してもらえないこともありますが……。本当は『いちげんさんお断り』とでもして、お得意様だけを相手にしていれば楽なんでしょうけどね」
例えば、わがままな客が無理な注文をつけたとしても「ありがとうございます」と頭を下げる。その様子を見ている周りの客は、「自分はああいう客にはならないようにしよう」と思う。いつしか自然と、客も「ありがとう」と言って買っていくようになる、という。「いい店は客がつくると言いますが、いい客を店がつくるということもあるのです」。
一方、ネット通販ではこうした接点はない。客と店とが互いに"いい関係"を築いていく環境がないのだ。「直接説明ができないから、インパクトのあるものや他にないもの、見ただけで買いたくなるような面白いものがネット通販には適していると思います」。
今は店売りの仕事で手一杯だが、余裕ができたらネットで売るための和菓子も作ってみたい、という。「本当に考えてはいるんですよ。お餅の中にミルク餡を入れて『おっぱいもち』なんてどうかなぁ(笑)。店ではこんな商品出せないけど、ネットではイケるはず。店で出す和菓子は"品格"、ネットでは"しゃれ"が必要でしょう」。
そう言いつつも、ネット通販での注文に手紙を添えて発送し、メールでの質問にも丁寧に答える。ところが、「せっかくこちらが発信しても何の反応もない」と嘆く。ネットは接点なしの販売ルート、と割り切っているようでも、実は内心、ネットでもそれなりの方法で客との接点をつくろうとしているのではないか。「ネットで客を広げようとは思わないから、ネットでうまくいかなくてもダメージはない」と言うが、逆に、ネットならではの接点が持てるようになれば、積極的に活用したい、ということの裏返しかもしれない。
実は、ホームページ開設のひとつのきっかけである求人効果はそれほどあがっていないが、宣伝効果は大きかったという。「和菓子のホームページ」という珍しさもあって、テレビや雑誌に数多く取り上げられたからだ。
和菓子という"伝統"の世界にネットなど新しいツールを持ち込んだり、テレビに華々しく登場することに抵抗はないのか、あるいは同業者からの反発やプレッシャーは?
「千利休がそうであったように、伝統を守るには、古いものをただ続けるのではなく、つねに新しいものに挑戦しないといけない」とサラリと言ってのける。
甘いものが嫌いであったのが、高校生のときに和菓子作りのドキュメンタリー番組を見て、「究極の省略美」に感動し、和菓子の世界に飛び込んだ。「原点は疑うこと」と自身が言うように、菓子の専門学校でも、伝統として決めつけられていた和菓子の素材や製法にはまず疑問をぶつけた。「もっと違うやり方があるのではないか」と、押し付けのルールを否定し、自分のやり方を探ってきた人でもある。
「TVチャンピオン」では、彫刻やジオラマのような繊細な作品をお菓子だけで作り上げる「工芸菓子」の見事な技を披露したが、それすら「職人のお遊び」と言い切ってしまう。テレビにしても、ネットにしても、つねに疑うことを前提としながら、新しいツールに挑戦しているのだろう。
「世の中が進んでいったら逆の方向に行こうかな」
「店を始めたときから地元だけで商売する気はなく、日本全国、いずれは世界を相手に商売するつもりでした。だから通販は当然のツール。ネット通販もごく自然の流れ」
東京都世田谷区、小田急線千歳船橋駅前の商店街に店を構える「珈琲工房HORIGUCHI」の店主、堀口俊英さん(51歳)は事もなげに言う。
堀口さんはアパレルメーカーからの脱サラで、90年にこのコーヒーショップをオープンさせた。店舗ではコーヒー豆の販売のほか、カフェも併設している。従業員は9人。開店と同時に電話やファクスによる通信販売を始め、98年にはホームページを開設。同時にネット上での通販も始めた。
いずれも、世界中のコーヒーをテイスティングしたという堀口さんが厳選したニュークロップ(新豆)の生豆を丹念にローストしたもの。その日に炒った豆しか使わないという徹底ぶりだ。
ホームページの冒頭には「日本屈指のビーンズショップ。今までに飲んだどのコーヒーよりも、おいしいと思えるコーヒーに出会える可能性があります」とある。『コーヒーのテイスティング』(柴田書店)などの著書があり、コーヒーコンサルタントとしてコーヒーショップやレストランへの卸売りやコンサルタントも手がけている堀口さんならではの、自信に溢れた言葉だ。
「最初から全国エリアでの商売を考えていたから、素材を吟味し、手間ひまかけてローストしているのです。店のあるエリアだけで商売しても採算は取れません。かといって、通販でただ販売エリアを広げればいいというものでもない。通販で売るからには、それなりの高い品質が必要なのです」
例えば、HORIGUCHIでは当初口コミで客が増えていったが、いくらおいしいと聞いても、普通は地元の店で豆を買う。他の地域の客にもリピーターとなってもらうには、その客の地元のショップを圧倒するだけの高い質が必要になる、という。
そのために、豆の品質にこだわるだけでなく、発送用パッケージや包装も工夫した。新鮮な豆を密封するとガスがたまってしまうため、ガス抜きの特殊な穴をつけたパッケージを使っている。豆や挽いた粉は常温乾燥保存、と一般に言われていたが、堀口さんは「冷凍庫で保存しないと香りが飛ぶ」と、通販の客にも正しい保存の仕方をアドバイスし続けた。
こうした努力の積み重ねの結果、通販の売り上げ、特にネット通販が増えているとか。今では月に約200件の注文が入る。
「新規の顧客だけでなく、これまで電話やファクスで注文していた人もネットにシフトしていますね。パソコンが普及してきたせいでしょうか。メールでのやり取りも増えてきました」
店舗では、客の好みや使っている器具などを聞いて会話をしながら、適したコーヒー豆を販売できるが、ネット通販だとそうはいかない。
「だから、ホームページでコーヒー豆の情報や僕がどんな人間で、どんな活動をしているかをできるだけ提供します。さらに、通販の注文に対しては僕が書いた文章やお店の状況などの情報も同封して発送します。ウチのお客様は豆と一緒に僕の考え方も買ってくれていると思っています。店でもネットでも信頼関係を築く努力を怠ったらやっていけないでしょう」
直接会話ができないネット通販は店舗販売よりも信頼関係が築きにくい。だから、ホームページでより多くの情報を提供するし、オーダーが入れば、きめ細かく返事を送る。「例えば、注文した豆に関するちょっとした情報やいつ頃届くのかをメールで送る。これだけでも、ネット注文という慣れない方法に対するお客様の不安を減らすことができます」。
HORIGUCHIでは、年商約1億円のうち、業務用が6割を占める。ちなみに、個人顧客の売り上げのうち、通販は4割、ネット通販はさらにその4割程度だという。店舗販売やネットを通し、個人顧客に対してコーヒーの"普及啓蒙"に努める堀口さんだが、この売り上げ構成が示すように、彼が本当に目指しているのは「日本のコーヒー文化を高めるための業界のレベルアップ」だという。
質の悪いコーヒーを辛辣なまでに批判する一方、自ら最高水準という独自の技術やノウハウを広く公開しているのもそのためだとか。ホームページはその情報公開のひとつのツールでもある。
「ホームページの目的に優先順位をつけるとしたら、『コーヒーショップなどの開業コンサルティング』『業務用卸売り』『個人への小売り』の順。日本ではコーヒー文化が育っておらず、コーヒー業界はまだまだ未成熟。本当に質が高くて美味しいコーヒーを普及させるために、業者に向けて僕の考え方や活動内容を提供したいんです」
そのために、近々ホームページをリニューアルし、業者向けの情報やメッセージを増やす予定だ。
「でもね、世の中がネットで便利な方向にどんどん進んでいったら、そのときは逆の方向に行こうかな、とも思っているんですよ」と、ニヤリと笑う。
「10年くらいしたら、ホームページもネット通販もやめて、歩き回って探さないと見つからないような店にしてしまうとか。ネット全盛になったら、そのほうがおもしろいかもしれないなあ」
趣味が高じて副業にその繁忙を解決すべく
「カレーのお店ハイシ」の本店は大阪府住吉区の住宅街にある。15人も入ればいっぱいになってしまう、この小さな店舗が、ネットを通して全国にカレーを通販しているのである。
この店、店主である水沼健男さん(59歳)のちょっとした副業から始まった。実は水沼さんは「ビル代行クリーン」という年商10億円近く、従業員176人を擁するビルメンテナンス会社の社長なのだ。
10年前、事務所にするつもりで購入した物件がたまたま空いたため、もともと食べることや料理が大好きであった水沼さんは、カレー屋を始めることを思いついた。
「何か食べ物屋をやりたかったんです。カレーは大好きだったし、夜に仕込んでおいて、ビルメンテが暇な昼間に店を開けることができるだろう、と」
水沼さんのカレーは全くのオリジナル。かつて、知り合いのインド人の家庭で食べたカレーがヒントになっている。「美味しかったが、汁っぽくて日本人には合わない」と思い、野菜やフルーツをたっぷり入れて改良してみた。自分で選んでブレンドしたスパイスも14種類。飽きのこない、まろやかでコクのあるカレーを作り出した。この、趣味で家族のために作っていたカレーがハイシの味となったのだ。
かくして、開店時間はビルメンテナンス業の"昼休み"である午前11時30分から午後2時30分までの3時間のみ。会社の休みに合わせたために飲食店ながら日曜・祝日休みという変わったカレー屋が誕生した。ご近所の人気店がまず口コミ、そして評判を聞きつけたマスコミによって広まり、4年後には鶴橋と阿倍野に支店を出すに至った。
「そのうち、お客様から店の場所や『どこで買える?』といった問い合わせの電話がどんどんかかってくるようになりました。しかし、こちらはお昼の3時間、店を開けるので手いっぱい。営業中に電話をもらっても、対応できません。そこで97年にホームページを開設することにしたんです」
ホームページなら店のことを詳しく紹介できる。商工会議所を退職して独立した知り合いのデザイナーに依頼し、年間約12万円のコストで作成・運営できた。同時にネット、電話、ファクスによる通販を始めた。
「本当はもっと早く通販を始めたかったのですが、『真空低温殺菌』という方法がなかなか保健所に理解してもらえなかったんです」
カレーは食材の風味とスパイスの香りが命。作りたてを出せる店と違い、パック詰めの通販では数日間の品質保証のために殺菌が必要。しかし、通常の高温殺菌では風味も香りも死んでしまう。なんとか風味を生かしたまま発送できないか、と研究した結果、真空パックに詰めてから75度で60分殺菌する方法に行き当たったのだという。
余談になるが、カレーもすべて自分で作り出したように、水沼さんはアイデアと努力の人だ。例えば、本業のビルメンテナンスでの経験を生かして、火災避難袋「ニゲニゲフード」なるものを製造販売もしている。小さく折り畳んだ特殊なポリ袋で、火災時にはこれを広げて頭から被って逃げる。袋の中の空気で3分間は持つ、というものだ。
こうしたアイデア精神がカレー業にもいかんなく発揮されているのだろう。今後はカツカレーやエビフライカレーの真空パック化なども考えているという。
ホームぺージが成功の鍵ともなったようだが、ちょっと困ったこともあるという。
「メールでスパイス会社の売り込みや不動産会社からの出店依頼、あるいはビルメンテナンスの同業者から『どうすればカレー屋で成功するんだ』といった問い合わせが来ます。これには答えようがないですね」
しかし、客からの質問メールには丹念に回答を打つ。あるときは「なぜカレーには福神漬けが付くのか」という質問が来たために、何日もかけて調べてから回答したという。
そこまでする必要があるのか、とも思うが、ネットの客は店とは違った意味で気を使う必要がある、という。
「店のお客様は雰囲気で楽しめることもあります。極端にいえば、カツカレーのルーの状態が多少悪くても、豚カツが旨ければまた来てくれます。しかし、ネット通販のお客様はカレーがすべて。一度でもカレーの味が気に入ってもらえなかったら終わりです。だから、最高の状態で発送できるように工夫するし、ホームページやお手紙でできるだけ情報を伝えます」
こうした努力が実ってか、徐々に注文が増え、今では1日当たり8パック入りのパッケージ(カレー8パックの場合、送料・税込みで4650円)で40~50ケースの注文が入るようになった。一度注文した客は、「3分の1がリピーターとなり、3分の1が思い出したころにまた注文し、3分の1がお歳暮などギフトに使ってくれる」という。
"趣味のカレー屋"が、今や従業員6人、パート10人を抱え、年商3億円近くを売り上げるまでに成長した。うち8割近くが通販によるもので、ネット通販はその4割を占める。
ここまで繁盛したら、経営者としてはどんどん出店したり通販を大規模に行うことを考えたくなるのでは?
「以前、あるレストランに卸したら手を加えられたことがありましてね。今でも出店要請は多いのですが、それ以来、自分の目の届く範囲、直接ウチから送れる所でしかやらないことにしているんです。例えば、デパートに出すと、誰がどこに持っていくかわからない。ウチの通販だけだったら、相手がわかる所にだけ送れます。たとえネットであっても、この『相手がわかる』という安心感が大切なんです」
店で培った経験が生む冷静な「ネット観」
つねに疑うことから始める職人の高橋さん、自分の味に絶対的な自信を持つ堀口さん、そして料理好きのアイデアマン水沼さん。まったく三者三様ではあるが、それぞれ店舗を繁盛させるだけでなく、ホームページやネット通販を活用してさらなる可能性に挑戦している。
ネットビジネスは「たまたま」始めて、「なんとなく」うまくいっている、と口を揃えるが、話を聞いていると決して「たまたま」ではないことがわかる。3人とも、"ネットの節度"とでも言うべき感覚が身についているのだ。だから、ネットを重要なツールとして認識しつつも過度な期待はしない。いわば、「半歩踏み込んではいるが、決して100歩は踏み込まない」といった状態を上手にキープしている。
なぜか。それぞれネットだけの商売でなく、実際に販売店舗があり、そこでしっかり根付いた商売を成功させているからだ。
こうした実際の経験で身につけた商売勘は、ネットというバーチャルの世界でも十分役立つ。たとえ未知の分野であっても、ネットの効果と限界を感覚的にすぐ理解できるのだ。
さらに、接客の強みも怖さも知り尽くしていることが大きい。店舗の客とネットの客との本質的な違いを十分理解して、それぞれに適した接客方法を自然に取っている。これも経験と勘のなせる業だろう。
こうしたサービスは顧客も敏感に感じ取るもの。だから"ネットの節度"をわきまえた店に出会えば、たとえ会話のないネット通販であっても、リピーターとなってまた注文するのである。
(PRESIDENT2000年5.15月号より)
エンジェル投資総研は、シードマネー集めに難航している起業家に対し、投資・融資をしてくれるエンジェル投資家を募集し、出会いの場を創出しています。
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インターネットに象徴される新しい情報インフラが普及する中、伝統的なマーケティング手法が壁にぶつかってしまっている。まず初めに、その背景となる理由について考察したい。
伝統的マーケティングの代表的な手法は、ビルボード・マーケティングとストラックアウト・マーケティングに分けられる。ビルボード(看板)・マーケティングとは、掲示板や広告塔に載せて、「お客さん、いらっしゃい」と呼び寄せる「待ち」の戦法を指す。
テレビコマーシャル、雑誌広告、新聞広告、インターネットのウェブサイトがこの手法といえる。昔、線路脇の田んぼに立っていた看板と同じだ。目の前を通り過ぎる通行人が振り返って見てくれる「期待」を前提にしている。
ストラックアウト・マーケティングは、人気テレビ番組「筋肉番付」でお馴染みのゲームから名前を拝借した。
ピッチャーが野球のマウンドに立ち、九つの桝目に一から九の番号が書いてある板に向かって、
「1番の桝に当てます」
と自らの狙う桝を宣言してから、「1番」に命中させるようにボールを投げるゲームである。限られた投球回数で、九つ全部をぶち抜くのは至難の業。「1番」の桝を狙っても偶然に「2番」に当たることも多い。
伝統的マーケティングを実施してきた企業は、まさにマウンドに立っているピッチャーと考えられないだろうか。この場合、「ボール」というのは、生活者の持っているニーズや解決するべき課題、「欲しいと思っているもの」のことといえよう。生活者は自分は3番だというのに、企業は危うい手つきでボールを持ち、当たれば儲けものとばかり投げ、結果、7番に当たったりしている。本当は逆で、生活者がボールを持っているのだ。「私たちは、これが欲しいのだ。私たちが困っている問題は、これだ」と。
このように、顧客がマウンドに立ち、ボールを持っている市場のことを「逆転の市場(リバース・マーケット)」と呼ぶ。後に詳細を述べるが、アメリカのネットビジネス、通称ドットコム(.com)企業群はその基本骨格を、逆転の市場の哲学で成り立たせている。その大前提は、「顧客が価格を決める時代になった」ということである。価格を決める、すなわち商品の価値を決めるのは企業ではなく、顧客である、ということだ。ここに伝統的マーケティングがぶつかっている壁がある。プライスラインや、eベイは「顧客優位」を徹底させて成功させたモデルといえよう。
そもそも「マーケティング」という言葉には、企業が何とかして生活者を自社の方向に向かせようとするニュアンスがある。繰り返すが、今はボールは顧客が持っている。企業が何屋さんであるかは、企業が自分で決めるのではなくて、顧客が決めることなのだ。
例えば、ソニーは何屋さんだろうか。大人気ゲーム機プレイステーションの開発当時、「ソニーはおもちゃ屋じゃない」とモメたそうだが、私の息子に聞けば、ソニーはゲーム会社だと答えるだろう。
このように、自社で用意した名刺、つまりブランド・イメージが白紙になっていくのが現代の特徴だ。そして、顧客による投票によって何屋さんであるかが決まり、ブランド価値すらも、顧客が形成していくことになる。
世界最大のネット・ショッピング会社アマゾン・ドット・コム(http://www.amazon.com/)(以下、アマゾン)の株価時価総額はインドネシア国内の全企業の株価時価総額を上回っているという。たった5年前に創業されたばかりのインターネット・ビジネスなのに、その成長率は目を見張るものがある。ではそのアマゾンは、何屋さんだろうか。本屋? CD屋? おもちゃ屋? オークション屋? 答えは顧客が決めることである。
「インターネットは新たな価値を生める」。創業者ジェフ・ベゾスの言葉だ。インターネット・ビジネスの本質を表すのにこの言葉ほど、ぴったりなものはないだろう。インターネット・ビジネスをするのであれば、「新しい価値」「在来の店舗では生み出せない価値」を、考えなければやる意味がない。そこに、「書店」だけを意味するブック・ドット・コム(book.com)としなかった理由がある。無尽に水が流れ続ける広大なアマゾン河のように、大量の商品を送り続けるというメッセージが込められているのだ。
その新しい価値の一つが「パーミション・マーケティング」という、以下に説明する新しいマーケティングの発想に集約されている。
「パーミション」と「土足」の違い
「『パーミション=許容』を基本にしたマーケティング(permission based marketing)」という言葉は、アメリカでは一般名称として昨年あたりから使われていたようだ。そして、米国ヤフー社副社長セス・ゴーディンが書いた同名の本で体系化された。
では、「パーミション・マーケティング」について説明する前に、その対《つい》概念である、「土足マーケティング」について、考えてみたい。
Interruption marketing──直訳すれば「じゃまするマーケティング」となるが、他人の家に土足で上がり込むイメージから、土足マーケティングと訳した。頼みもしないのにかかってくる株の投資勧誘電話、ポストをあふれさせるチラシ、大事な郵便物とクズとの区別がつかないダイレクトメール。お気に入りのドラマを観ていて、いいところで引っ張られるコマーシャル。音楽を聴きたいのに、おしゃべりばかりのFM放送。これらはすべて土足マーケティングだ。
では、具体的にどのようなアプローチを取るのだろうか。パーミション・マーケティングの特徴をいくつか列記したい。
◆特徴1:顧客を育てる
パーミション・マーケティングを進めるには、いくつかの段階を踏まなければならない。
[1]見知らぬ通行人(将来の顧客)と友達の関係をつくる。
[2]その後に友達を顧客にする。
[3]一度掴んだ顧客と永続的な関係をつくる。
「パーミション・マーケティング」の肝要は、この顧客との関係性に対する哲学であるといってよい。[1]にあたる手法は、ウェブサイトで新規顧客を開拓するために行うプレゼント企画が典型的手法といえよう。
◆特徴2:メッセージ
では、その、顧客とやりとりするマーケティング・メッセージの特徴は、次の3点である。
[1]期待される……人はあなたからのメッセージを楽しみに待ってくれる。
[2]パーソナルである……メッセージはダイレクトに個人に届けられる。
[3]適切である……パーミション・マーケティングは生活者が興味を示したものについてのメッセージを送る。
一度でもプレゼント企画に応募したり商品を購入した顧客に対して、定期的にショップからEメールを送るのはこの手法にあたる。
◆特徴3:繰り返しと信用
どれだけの範囲にメッセージを投げかけるかではなく、どれだけの頻度で繰り返しメッセージを投げるかが重要だ。繰り返しは「パーミション」の獲得につながり、「パーミション」は信用に結びつく。
ただし、メッセージは顧客から「信用」される良質なコンテンツでなくてはならない。商品情報の押し付けだけでは、「信用」を築くことはできない。
◆特徴4:顧客内シェアと生涯価値
伝統的なマーケティングのスタンスでは販売する瞬間に重点が置かれているが、パーミション・マーケティングでは販売や利益は後回しである。また、伝統的マーケティングはできるだけたくさんの顧客に、できるだけたくさんの商品を販売することに重点を置くが、パーミション・マーケティングでは一人の顧客における顧客内シェアと、生涯価値に重きを置く。「その顧客が一生のうちに、どれだけ自社の製品・サービスを買い続けてくれるか」ということだ。
●Vmail
ネットエイジ社のVmail(http://www.vmail.ne.jp/)が1月20日にサービスを開始した。日本初の本格的オプト・インメール、パーミション・マーケティングを実現するものとして、多方面からの注目を集めている。
オプト・インとは、「参加する」という意味で、利用者自らが、「広告の流れの中に参加するよ」と同意してくれて、各カテゴリーから欲しい情報を選び、各広告主からのメールを受信してもいいよ、という「パーミション」をVmailに与えるわけだ。
このサービスのユニークなところは、毎月末、クレジットカードの「ご利用明細書」と同じ思想で、「パーミション明細書」が利用者の手元に届けられることだ。これによって利用者は今、自分が何の「登録ジャンル」「登録カテゴリー」に対して「パーミション」を与えているのか、確認できる。
これにより利用者は定期的に必要とする広告を取捨選択でき、サービスの信用が高まる。
Vmailのいちばんの付加価値は、あふれんばかりの情報を、利用者の関心・興味に合わせて編集し、提供していくという機能を持っていることだ。
登録した利用者に無料で送られてくる「Vmail便り Vol.4」で、その趣旨に関して次のように記している。
「ユーザーや企業のみなさんの声をフィードバックさせることでカテゴリーを追加・変更していこうと思っています。Vmailへのパーミションの積み重ねに基づく『共創』こそが、Vmailの価値を高めるいちばんの仕組みになると考えています」
ここに出てくる「共創」という言葉がまさに鍵となる。
お客が価格を決める事例 [1]
●プライスライン
http://www.priceline.com/
98年にビジネスをスタートしたばかりだが、早くも有名ブランドになった。航空券、ホテル予約、車、住宅ローンなどを扱っているオンラインショップ。いちばんの特徴は、価格を決めるのは売り手ではなく、買い手であること。利用者は自分が買いたい価格を提示しておくと、プライスラインがその価格に見合った売り手を探し出してくれる。航空券の場合、米国内便であれば1時間以内に、国際便であれば24時間以内に返事が返ってくる。
一方、パーミション・マーケティングは、相手の家に土足で入り込むのではなく、向こうから玄関を開けて迎えてくれるのが特徴である。
eエコノミーで勝つための三つの要素
このようなマーケティングが注目されるのは、インターネットの出現により、経済の仕組みがドラスティックに変わると見られているからである。
現代のわれわれを取り巻く新しい経済を「eエコノミー」と呼び、その特性を考察してみたいと思う。eエコノミーは「お金」でもなく、また「情報」でもなく、もっと進化・深化した知識が資本となる。流通するのは「e化した知識」、すなわち電子武装された知識なのである。
「eエコノミー」においてビジネスを成功させるには、「成功の三要素」と呼ぶ三つの要素が、それぞれバランスよく均衡を保っていることが必要だ。
(1)コンテンツ・リッチ:持っている物語が豊かである。
(2)コンテキスト・リッチ:顧客との関係性が豊かである。
(3)デリバリー・リッチ:製品・サービスの届け方が豊かである。
アマゾンでの買い物体験を事例として、「成功の三要素」を考えてみよう。
まず、ぼくが知人から『Permission Marketing』が面白いと推薦を受けたとする。
アマゾンのウェブサイトを訪れ、どんな本か、検討する。46人の読者からの書評が掲載されている。★の数が評価点だ。これまでの46人の評価の平均では4.5といったところか。
「すごい!」と絶賛している人もいれば、「もっと短くできたはず。また、インターネット・マーケティングが、ゲームや賭け事がなければ効果的ではない、といった誤解を与えかねない」といった指摘をしている人もいる。「退屈だ。1~2ページにまとめるべき」と極端に辛い点の人もいる。実はこの読者評価そのものも、別の読者によって評価される仕組みがあって、「この人、こう言っているけど、参考になりゃしないよ」とか、「たしかに、おっしゃるとおり!」とかが、わかるようになっている。
この、「評価の評価」という仕組みのおかげで、評価の品質維持、 評者そのものの自然淘汰、というまさにインターネットらしい仕組みによる健全性の確保がなされているわけだ。
ともかく、毀誉褒貶という本は、面白いに違いない。そこには読者の数だけ、物語が生まれているわけだからだ。アマゾンでの買い物の楽しさは、このように「物語」を読む楽しさがある。物語がリッチなのだ。ただ出版社がお題目を唱えるのではなく、書店側が「お勧め」するのでもなく、新しい「物語」が読者との関係性から生まれているのである。
アマゾンで一度でも買い物をすると、最初に現れるトップページで「阪本啓一さん、こんにちは! 本、音楽、DVD、ビデオ、おもちゃ、ビデオゲーム、コンピュータソフトのお勧めをご用意しております」と、出迎えてくれる。自分専用の「メンバーページ」をつくったり、あらかじめ指定した友人にお勧めする「ともだち専用」ページをつくることもできる。一度プレゼントした相手の住所は覚えていてくれて、何度も打ち込まなくてもいい。顧客との関係性リッチだ。もちろん、すべてはぼくがアマゾンに手渡した「パーミション」の蓄積に基づくものである。
そして、私が大阪市内のオフィスのパソコン画面をクリックすると、目的の本は、全米7カ所にある倉庫 (エンパイア・ステートビルの総床面積の1.5倍あるという)のうちの一つから送り出され、普通注文であっても、10日で太平洋を飛び越え手元に到着する。ちなみに、太平洋に近いからといってシアトルから来るとは限らず、今日届いた荷物の差し出し先は、ジョージア州にあるマクダナー(広さ80万平方メートル)からであった。
日本で店頭にない本を注文すると3週間待てといわれることを思えば、驚く速さである。デリバリー・リッチといえる。
お客が価格を決める事例 [2]
●イーベイ
http://www.ebay.com/
アメリカのオンライン・オークション・サイト。参加者はインターネット上でオークションに出品することも、落札に参加することもできる。扱い商品のカテゴリーは約1600種にも及ぶ。日用品からマニア向けまで、扱い商品はさまざまだ。3月1日現在で、460万を超える品がオークションに出品されている。大規模なデパート以上の品があることを考えるならば、オークションといえど商売の仕組みを根底から変えた大規模な市場といえる。
企業と顧客の境目がない
「お祭り型市場」
ここまで、成功の三要素に沿って、eエコノミーで勝つための三つのリッチを考えたが、最後にこれからのマーケティング・ビジョンを考えてみたい。
企業と顧客との境目がどんどんなくなっていき、顧客自身が市場をつくり始めていく、サービスにも参加していく──先述のように、アマゾンの持っている価値には、読者の書評も含まれている。従来の市場観とは全く違うわけで、それは「お祭り型市場」と表現できる。
お祭り。ここでは、だれが主宰者か、だれが参加者か、という境界は無意味だ。その場にいるみんなでつくり出していくものだ。祭りという場に対して、参加者各自が「パーミション」を与えて、自発的に参加しているのだ。市場はこのような「お祭り型市場」になっていく。実際のユニークな試みを見ていこう。
●空想家電(http://www.coi.co.jp/)
あるデザイナーが主宰する「空想家電」というプロジェクトは、こう宣言している。「あなたの身の回りには、 いったいいくつの HAPPY がころがっているでしょうか。例えば、家電。機能や性能の高さだけでなく、その姿・形を見ているだけで楽しくなったり、暮らしやすくなったり。 そんなデザインを、もしも自分たちの手でつくれたら。たとえ一人の落書きから始まったアイデアでも、それをいいと言ってくれる仲間を1000人集められたら、メーカーだって、放っておくわけにはいかないのではないでしょうか」
現在、くまのぬいぐるみの形をしたリモコンの開発を進めている。これまで実際に商品化された事例もある。開発されたアイデアは、参加者の投票によって、製品化されるかどうかが決定する。くまリモコンの場合、ぼくが見た段階では、投票数505票、製品化指数(各アイデアの製造を依頼できる工場との交渉度合い)50%とのことだ。みんなが生活を「ハッピー」にするためにはどんな商品が身近にあってほしいかということを、楽しく、夢いっぱいに語っている。
ネット社会は本質的に、「面白ければ参加する」お祭り的性質を持っている。創成期のパソコン通信サービスが自前で有料情報を用意して、お客さんが来るのを待っていたのは、実は工業社会の名残だったわけである。
これまで、新しい経済(eエコノミー)における「パーミション」を基本としたマーケティングについて考えてきたが、最後にポイントをまとめたい。
(1)生活者の時間を奪わない
生活者は時間がない。だから、彼らの時間を奪うのではなく、短縮してあげるサービスが求められる。
(2)生活者と生涯のお付き合いを目指す
一回きりの関係ではなく、生涯にわたってその製品・サービスを買い続けてもらえるような関係を構築する。
(3)生活者に参加してもらう
企業から生活者に一方的にメッセージを送り続けるのではなく、製品・サービスづくりにまで「参加」してもらう姿勢で臨む。
(4)生活者と共同して物語を紡ぐ
製品・サービスだけではなく、その周辺にまつわる物語を共に紡いでいく姿勢を持つ。
この四つのポイントを押さえたマーケティング戦略こそが、ネットが普及した新しい社会を勝ち抜くために欠かすことができないポイントである。
(PRESIDENT2000年4.3月号より)
エンジェル投資総研は、シードマネー集めに難航している起業家に対し、投資・融資をしてくれるエンジェル投資家を募集し、出会いの場を創出しています。
スタートアップ期における創業資金調達先として、大口融資・高額融資・即日融資のエンジェル投資総研をご利用頂き、アーリーステージからの脱却を図ってください。
基礎編
eビジネス
【e-business】
コンピュータとネットワークの力を借りて、商売をすること。IBMがキャッチフレーズとして使っている。eはエレクトロニクスの頭文字。ネットワークとは、少なくとも現時点ではインターネットと考えてさしつかえない。
宣伝や呼び込みから商品陳列、接客、勘定、顧客管理に至るまで、ネットワーク上で展開すれば、店にとっては経費節減につながり、客にとっては利便性が向上する。ただし、店も客もインターネットに接続できるコンピュータが使えなければ、始まらない。たとえば、通販の注文のためにわざわざ電話を引く人はいない。家に電話があるから、通販や出前を利用するのだ。とすれば、eビジネスのためには、家にネットワーク接続されたコンピュータがふつうに存在している必要があるが、そうなるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
基礎編
ドットコム
【dot-coms】
eビジネスは、インターネット上にウェブサイト(ホームページ)と呼ばれる専用スペースを確保し、そこで商売をする。ウェブサイトの位置は、「URL」と呼ばれる文字の羅列(たとえば、 http://www.abc.com )で表される。インターネット上での住所や電話番号に相当するものだ。客は手元のパソコンでURLを指定して、めざす店にたどりつく。最近は、テレビCMや雑誌の広告の片隅にURLを記載している企業が増えている。
米国では、インターネットにウェブサイトを開設し、そこで積極的にビジネスを展開している企業を指すとき、URLの末尾が「.(ドット=ピリオド)+com(コム)」であることから、総称的に“ドットコム”カンパニー(略して「ドットコム」)と呼んでいる。最近は、特にインターネットを活用してそれなりに成功を収めている企業について、称賛の意を込めて「ドットコム」と呼んでいるようだ。たとえば、世界最大級のインターネット書店で有名な「アマゾン・コム」(URLは http://www.amazon.com )は、ドットコムの代表例だろう。日本企業の場合、URLの末尾が「co.jp」となることが多いが、それでも細かいことは抜きにしてドットコムと呼ぶ。
当たり前のことだが、インターネットで店を開けば誰でも繁盛するわけではない。成功しているドットコムの陰には、閑古鳥が大合唱しているような“ドットコム崩れ”が多数存在する。インターネットで繁盛している店は、インターネットでの商売に向いたノウハウ、資質、条件を備えているからにほかならない。銀座で繁盛している店は、銀座に店を開いたから儲かっているわけではなく、銀座での営業ノウハウを持っているから成功しているのと同じである。
基礎編
B to B (B2B)、B to C (B2C)
【Business to Business, Business to Consumer】
数年前、インターネット・ブームになるや、インターネットにはありとあらゆる電子商店が雨後のタケノコのごとく誕生した。人で賑わっているところに屋台が並ぶのは、洋の東西を問わない。社寺の境内も電脳空間も大差はない。そういう当たり前の現象も、ネットワーク上になると、「エレクトロニック・コマース(EC、電子商取引)」と大仰な名前で呼ばれる。
ところが祭りの屋台と違って、ECはさっぱり儲かっていない。祭りなら、どの店だろうと値段も味も変わらないと踏んで手近な屋台で済ませるところだが、インターネットでは各店の比較がいとも簡単にでき、客の評判も国境を越えてすぐに広まる。ちょっとでもレベルの低い店は、優良店の引き立て役にしかならない。国境も距離も関係ないので、世界中の二流店、三流店に引き立てられたひと握りの一流店は、たちどころに客を集める。おまけに、インターネットではカネをかけず片手間でも店が開けるなどと宣伝されたものだから、三流店、四流店はゴロゴロしており、引き立て役には困らない。超優良店は笑いが止まらない。インターネットは舞台が一つしかないのだから、役者同士が簡単に比較されてしまうのは仕方がない。そうやってスポットライトを浴びているごくわずかな優良店を除けば、基本的に閑古鳥がグローバルに鳴きまくっているのがECの実態だ。
たしかにネットワークの商売は決済手段が未成熟なうえ、客にとっては品物に触れない、店の素性もわからない、おまけに世の中では肝心のパソコンを持っていない人のほうが圧倒的に多いとあっては、儲からないのも無理はない。特にカネの受け渡しは、渋谷や新宿などで電子マネーの実証実験をやっているが、とても成功しているとはいえない。
では、ECに未来はないのか。考えた末に誰かが言い出した。「素人のいちげんさん相手じゃ、儲けも知れている。会社相手ならば儲かる」と。その結果、ECは「対消費者」と「対企業(=企業間)」に分けて考えられるようになった。対消費者は、Business to Consumer(企業対消費者)という英語の頭文字を取ってB to C、対企業は、Business to Businessの頭文字からB to Bと呼ばれるようになった。最近は、発音が同じというだけでB2C、B2Bという表記も増えてきた。
なるほど、B to Bならば、必ずしもその場で現金決済する必要がなく、お互いに信用調査も可能。長期的、継続的に大口の取引も期待できる。インターネット登場前から大型コンピュータを結んで取引してきた実績もある。カンバン方式のカンバンを電子カンバンに置き換えれば、そのままB to Bである。このため、短期的にはB to Cで利益を上げることができても、長い目で見れば、B to Bのほうが本格的な収益源になるとの見方が強まっている。また、企業向けとなると市場が急成長してから参入するのでは機会損失も大きいだけに、是が非でも乗り遅れたくないとの思惑が働いているようだ。かつての円高不況の際、大手メーカーが続々と海外に生産拠点を移したとき、下請け企業がこぞって海外へと後追い脱出して産業空洞化と騒がれたのは記憶に新しい。
本来のB to Bは、ネットワークのメリットを生かして、不特定多数のB(企業)の中からその時点で最も有利な条件の相手を選んで取引することを指しているのだが、日本のB to Bは、大手が系列の下請けを引き連れてインターネットに場を移すだけの“系列B to B”に行き着くのか。とすれば、系列B to Bなるものは単なる現実世界の言い換えにすぎず、経営規模の大小や地理的条件を問わずにさまざまな企業が既存の流通ルートにとらわれずに取引できるというネットワークのメリットは生かされないことになる。
お客を呼び込む
ウェブ
【Web】
ネットワークの正体は、単なる電話線である。その電話線に電話機でなくコンピュータをつなげれば、コンピュータ・ネットワークになる。地球規模で縦横無尽に張り巡らされたネットワークのところどころに、ホームページを仕込んだコンピュータ「サーバー」が点在している。このネットワークは、まさに蜘蛛の巣のような状態なのでウェブと呼ばれる。
自宅のパソコンでURLを指定してどこかのサーバーに接続すれば、そこに仕込んであるホームページが閲覧できる。もっとも、通り沿いに店を開くのと違って、ネットワーク上では、店の存在に偶然気づいてもらえることは皆無に等しい。通販会社がテレビCMで自社の電話番号を連呼しているのと同様に、eビジネスも店の位置を示すURLを宣伝することが第一歩となる。
ネットワーク上では、基本的にどこにサーバーがあろうと、客にとって店への行きやすさに差はない。店までの物理的な距離は大した問題ではないのである。店にしてみれば、大通りだから家賃が高い、裏通りは立地が悪い、片田舎で人通りが少ないといった悩みはなくなるが、逆に言えば、現実の世界で立地条件の良さだけで商売をやってきた店は、ネットワーク上ではセールスポイントがないことになる。
お客を呼び込む
コンテンツ
【content】
情報の中身のこと。絵(写真)や文字を使って客に商品を買ってもらうのだから、わかりやすい商品の絵を置いたり、商品の特長がわかる文章を用意したりする必要がある。が、これが実に難しい。街にある現実の店であれば、単に商品が陳列されているだけで、独自に商品の特長を説明していることは稀であろう。そうこうしているうちに、店員は商品知識が欠如していく。客からの質問にも答えられなくなるが、それでもなんとかなっていた。
しかし、ネットワークの店でもこの調子では、客は目隠しされて「エイヤッ」で買い物をするのと同じだ。そんな店には客は寄りつかない。コンテンツなどと遠回しの言葉ではわかりにくいのだが、eビジネスにとって何よりも大切なコンテンツは、商品に触るることができない客が商品を買おうと決意できるだけの情報にほかならない。ということは、コンテンツとは、店員の商品知識そのものであり、客に対する姿勢そのものなのである。なお、日本ではコンテンツと複数形のような言い方が定着してしまったが、複数形のcontentsは「目次」の意味である。「中身」という意味ならコンテントと単数形らしく表現するのが正しい用法である。
お客を呼び込む
バーチャル・モール
【virtual shopping mall】
インターネット上の商店街。一軒の商店が細々と商売するよりも、複数の商店を集積したほうが認知度も集客力も増すというのが商店街のコンセプトだ。一カ所でさまざまな店に立ち寄ることができるので、買い物客にしてみれば移動の手間がかからない。
ところがインターネットの世界では、一部の例外を除き、多くのバーチャル・モールでは閑古鳥が鳴いている。ネットワーク上では、バーチャル・モールと称して店が何百店、何千店集積されていようと、実体がないのだから、残念ながら通行人には気づいてもらえない。いや、むしろ、何万店、何十万店もの店が存在するインターネット自体が巨大な商店街なのである。とすると、バーチャル・モールとは、商店街の中に新たに商店街をつくるようなものなのかもしれない。
ともかく、一カ所でさまざまな店を訪問できる商店街のメリットは、店側にしてみれば囲い込みの発想以外の何ものでもない。しかし、そのような考え方はインターネット上では無意味に近い。その証拠に、同じ商店街の中だけでなく、別の商店街へもマウスのクリック一つで簡単に移動できる。そこが現実の商店街との大きな違いだ。ほかの商店街への移動が面倒くさいからここで済まそうなどという弱みにつけ込むことはできないのである。
つまり、ネットワーク上で商店街をつくることには、現実世界ほどの大きなメリットはないのだ。第一に、立地条件や規模といった従来の発想は大して役に立たない。そもそもeビジネスは、立地や規模、資本に関係なく勝負ができる世界なのだから、立地発想やスケール発想から生まれた商店街にしがみつく必然性はないのだ。
実際、ネットワーク上で売れている店は、立地や規模ではなく、評判や口コミが集客力になっている。eビジネスのターゲットとなるインターネット利用者の多くは、ネットワーク上のコミュニティーや会議室で情報を交換している。実際のユーザーの声が他の潜在顧客の掘り起こしにつながっているのだ。ネットワークでは、商品を手に取って確かめられないからこそ、すでに使っているユーザーの声は、バーチャル・モールにある下手な商品写真よりも説得力がある。
こうした口コミの場として注目されているのが、電子メールを雑誌風に仕立てたメールマガジンや、ネット上の電子会議室だ。マガジンといっても発行しているのは本格的な出版社から趣味の個人までさまざま。マガジンを通じて読者のコミュニティが生まれ、そこでの投稿や記事から人気ショップが誕生することも少なくない。また、パソコン通信やインターネットの会議室で話題に上った商品や店が人気を集める例も多い。
お代を頂く(決済・集金)
電子決済
【electronic payment】
誘拐事件では身代金の受け渡しが最大の難関といわれる。匿名性の高い携帯電話を駆使して逆探知捜査の網をくぐり抜ける誘拐犯も、身代金の受け渡し場所は相変わらずインターチェンジや高架下と相場が決まっている。多くの場合、ここで御用となる。脅迫状や身代金要求といった情報は電子化の波にうまく乗るが、現金はそうもいかない。相手と直接接触せずに匿名性を確保したうえでの現金受け渡しが困難であるからこそ、誘拐事件は成功率が低く、犯罪そのものの大きな抑止力になっているのだ。
ところが、ネットワークの商店にとっては、このことが商売繁盛の抑止力になってしまっている。注文から決済までネットワーク上で完結できないのだ。電子マネーもかけ声ばかりで普及には至っていない。クレジットカードの番号をやりとりするという手もあるが、誰もが持っているわけではないうえ、現金のような匿名性も低い。おまけに日本の場合、クレジットカード会社の加盟店審査が厳しく、中小企業や個人商店では簡単にカード決済を導入できないでいる。このため、金融機関での払い込みや宅配業者の代引き制度を利用しなければならない。オンライン・ショッピングでは、注文や問い合わせが自宅に居ながらにしてきわめて簡単にできるだけに、現金受け渡しの不便さが際立ってしまう。
お代を頂く(決済・集金)
ネット・バンキング
【network banking】
銀行のATM(現金自動預入払出機)の前には、昼休みともなれば順番待ちの長蛇の列ができる。「自宅にATMがあればいいのに……」。そんな発想で生まれたのがネット・バンキングだ。要は、自宅や会社のパソコンがATMになったと思えばいい。当然のことながら現金払い出し機能はないが、口座振替や残高照会などが可能だ。これまでは実際に銀行に口座を持っている利用者向けの副次的なサービスとしての位置付けだったが、一九九九年七月に発表された富士通とさくら銀行の合弁によるネット専門の銀行は、ネットワーク経由“でも”利用できる銀行ではなく、ネットワーク上“だけ”で完結する独立銀行となる。eビジネスの弱点であるネットワーク上での決済を実現するうえで、こういったネット銀行の口座振替は有力な決済手段になるはずだ。
品を届ける
ロジスティクス
【logistics】
ネットワークで商売をするうえで、最もネットワークと相性が悪いのが配送である。ネットワークを使うことで店舗家賃や人件費などのコストがどんなに削減できても、品物の配送だけは従来の物流に頼らざるをえない。たしかにソフトウエアや音楽など電子化してネットワークでやりとりできる商品も存在するが、これらはあくまでも例外だ。したがって、ハイテクを駆使したeビジネスでも、品物の配送ばかりは渋滞やストで簡単に止まってしまう。品物の移動速度も「ビット/秒」とは無縁の「キロメートル/時」の単位だ。いくら距離や時間をあまり意識させないeビジネスとはいえ、配送は法定速度にがんじがらめに縛られている。配送スピードの高速化は、道交法の改正を待つしかないが、だからといって物流面で何も工夫できないわけではない。
そこで、品物の到着を待つ客のイライラを少しでも解消しようと、いろいろな工夫が生まれている。たとえば、客がホームページで注文番号を入力すると、「○月○日○時○分、成田空港通関手続き中」といった具合に、品物が現在どのあたりでどのように処理されているかが手に取るようにわかるサービスを提供する業者もある。
また、配送業者の応対もいろいろな工夫ができる。ネットワークで買い物をした場合、客が初めて実物の商品を手に取るときに目の前にいるのは店員ではなく宅配業者である。客本人と接触できる唯一の人間が配送業者なのである。いわゆる御用聞きが単なる配達員でなく、配達先の情報を収集し、客に商品情報などを提供する重要な役割を果たしていたことは言うまでもない。
ところが、eビジネスで客と唯一の接点となる配送業者は、まだそういう役割を果たしていない。つまり、eビジネス側が配送業者を“情報エージェント”として活用していないのだ。もったいない話である。今後、eビジネスが普及するにつれ、当然ながら「思っていた商品と違う」といった理由で、客が商品の受け取りを拒否するケースも増えるだろう。あるいは、客から商品についての質問を受けるかもしれない。こうなると、配送業者も単なる配送業務にとどまらず、販売店の店員としての振る舞いを要求されるはずだ。
お客をつなぎ止める
インタラクティブ
【interactive】
言ってみれば商売の基本。「相互作用」や「双方向性」などといった小難しい言葉を持ち出すまでもない。商売は相手あってこそで、自分の思いどおりに事は進まない。たとえ自分に作戦があっても、しょせん、相手の出方次第。客にとっては店次第、店にとっては客次第なのだ。客の様子をうかがいつつ、どう売るか、どう応じるかを決める。客も人間だから、こちらの対応が悪ければ二度と来店しなくなる。とすれば、物理的に客の顔が見えないネットワークでの商売だからこそ、店頭よりも敏感に客の“顔色をうかがう”努力が欠かせない。顔が見えないのだから気楽な商売などという店主は、閑古鳥の存在にも気づかなくなるのがオチ。
お客をつなぎ止める
ワン・トゥ・ワン・マーケティング
【one-to-one marketing】
客を十把一絡げにして商品づくりや顧客への応対をしてきた悪しき態度を戒める言葉。「客は一人一人違うので、売り方も客に合わせて変えるべきじゃないか」という至極当然のことをあえて言葉にすれば、こうなる。
もっとも、客が増えてくれば、客の好みはもちろん、顔や名前さえ思い出せなくなるもの。そこで物覚えのいいコンピュータを味方につければ、商売の規模が大きくなっても、顧客ごとに過去の買い物の頻度や嗜好などを即座に割り出せるため、客への応対にとまどわずに済む。
そんなコンピュータの使い方の一つがデータウエアハウスである。日頃の取引や請求、支払い状況など、さまざまなデータを蓄積しておき、必要に応じて必要なかたちで情報を引き出し、ダイレクトメールやアフターサービスに活用すれば、結果的に客のつなぎ止めに役立つ。
しかし、白い洋服ばかり買っている客に、「新しい白の洋服が入りましたよ」と誘うべきか、「たまには黒もどうです?」と提案すべきか。そんな判断まで過去のデータをもとにコンピュータが決めてくれるわけではない。結局は店主の腕次第。臨機応変に客の心を読む眼力がものを言うのだ。
お客をつなぎ止める
CTI
【computer-telephony integration】
電話とコンピュータを連携させてビジネスに活用すること。もともと、通販などの電話注文受付センターできめ細かい対応の実現をめざして考案された。たとえば、発信者番号表示機能を応用すれば、かかってきた電話に出る前に、発信者の番号をもとにコンピュータが顧客リストから過去の購買歴やら趣味やら家族構成やらを見つけだし、手元のコンピュータ画面に即座に表示することも可能だ。相手を把握してから、初めて受話器を取り、「三カ月前にお買い上げいただいた○○はいかがでしたか」「××をご購入いただいてから一年になりますが、そろそろ新モデルの××はいかがですか」などとやれば、客は大感激という寸法だ。
最近は、コンピュータが自動的に客に電話をかけて「そろそろ××はいかが?」と営業するシステムもあるが、ここまでくると、きめ細かい営業どころか、いかに手を抜くかという発想が見え見え。本来、店員の記憶力では覚えきれないこともあるので、足りないところは機械に手伝ってもらい、客が増えてもきめ細かく対応する体制を整えるというのが目的のはず。ところが、客のことを覚えるのが面倒なのでCTIを導入する企業もある。そのような使い方では、かえって白々しさばかりが目立ち、客にすぐに感づかれてしまうだろう。
お客をつなぎ止める
顧客満足
【customer satisfaction】
eビジネスに関わる用語は、実のところ、商売の基本ばかりであることにお気づきだろうか。いや、むしろ、文字や絵がコミュニケーションの手段で、お互いの顔も姿も見えず、商品に触ることもできないという制約だらけの中で商売をするeビジネスだからこそ、ますます商売の基本が大切なのだ。
ネットワーク上にある店での買い物は、客にとって決して豪華な楽しみではない。散歩を兼ねたウインドウ・ショッピングなどという満足感もない。街の匂いのようなものもない。客は住み慣れた自宅のパソコンの前にいる。街や店内の雰囲気にだまされることもない。ウェブサイト画面の表示が遅いというだけで、あっという間に去ってしまう。何のことはない、マウスのクリック一つである。
そんな冷静な客を相手に、何を武器に、どんな商品をどのように売るというのか。現実の店舗ならば、豪華な柱や分厚いドアを使って店を立派に見せ、客の心をつかむことができるかもしれない。しかし、同じ発想で、立派なドアの“写真”をホームページに用意しても、客は苦笑するばかりだろう。
多少サービスが悪い店でも、駅前で便利だから仕方ないと半ばあきらめ顔で利用してくれていた客も、ネットワーク上では簡単によそのサービス満点の店に流れてしまう。ネットワークでは、立地や規模、店構えなど、商売のほんとうの実力とはかけ離れた要素で客を集めることはできないのだ。ネットワークでの店舗経営は、初期投資こそ少ないかもしれないが、商売自体は決してお手軽な姿勢でできるものではない。何よりもまず、価格、サービス、納期、サポートといった商売の基本要素で競争力を高め、そのうえで付加価値を提供しなければ生き残れない。このような条件を満たして生き残れる店であれば、当然、利用客の顧客満足度は高いだろうし、固定客となってくれるはずだ。その意味では、経営者にとって商売の才能が最も試される場である。
(PRESIDENT2000年1月号より)













