「脱・個人商店」ワイン通販の第2ステージ
1996年11月に立ち上げられた小仲律子(31歳)の「Cave de vin 小仲酒店」は、ワインに関するホームページのパイオニア的存在といえる。
「酒屋のおじさんって、仕事のとき、メーカーからもらったジャンパーを着る人が多いでしょ? そういう美意識には小さい頃から耐えられへんかった。そやから親には『ブティックみたいなお洒落な店やったらやってもいい!』と突っ張っていました」と語るように、小仲のホームページはお洒落感覚に満ちている。
その最たる例が「ワインと音楽」。
「このワインを飲むときはこのCDを聴きながら!」と、それぞれのワインに合った音楽を紹介するユニークな企画だ。ほかにも「今月のおすすめワイン」や「お父さんのためのワイン講座」など実用的なコンテンツも人気が高く、現在、ワイン通信の登録者は3200人。一日のヒットが1700~2000。月額200万~300万円の売り上げを誇る。
小仲が家業を継ぐまでには紆余曲折があった。高校卒業後、米国の短大に入学。卒業後は東京の商社に就職した。バブル末期で給料も高かったが、仕事自体は全然面白くなかった。
その頃、二人の兄は医学系の学校に進み、父・康夫にとって、跡継ぎは彼女しかいなくなってしまっていた。
「仕事を辞めて習い事でもしたいなと思っていたとき、父に『サントリー・フードビジネススクールに行ってみないか』と誘われて……」
92年、小仲はスクールに通うため関西に戻り、1年でワイン・アドバイザーの資格を取得。彼女はついに家業を継ぐ決心を固めた。
2年間フランス語を習い、25歳のとき、フランスのボルドーの商工会議所の教育機関(I.P.C.Vins)に入学。帳簿の付け方やワインの管理、醸造学に至るまで、ワインに関するあらゆる知識と経営学をみっちりと叩き込まれた。そして、95年、プロとしての本格的な知識を身につけた小仲が帰国してみると、店の経営はかなり悪化していた。お洒落な店づくりどころか、店の存続の危機に直面してしまったのである。
そんな彼女が、初めてインターネットと出会ったのは96年6月だった。
「知人に近所のインターネット・カフェに案内されたとき、遊びで、大好きやった音楽劇『ロッキー・ホラー・ショー』を検索してみたら、ファンクラブが世界中にぶわーっと出てきたんです。かなり興奮して、『これは商売にも使える!』って直感しました」
商社時代からマックを使いこなしていた彼女は、同年11月に独学でホームページを立ち上げた。初めのうちこそ反応は少なかったが、その後のネットブームもあって、売り上げは着実に伸びた。
現在では、店の総売り上げのおよそ四割をネット販売が占めているという。
モール出店から1年で、月商1800万円達成
99年2月26日にショッピングモール「楽天市場」へ出店した「ワイナリー和泉屋」は、参加してまだ1年余りという短期間で、今年4月の販売実績が約1800万円、販売個数約3000個、アクセス数15万強という実績を挙げた。
「売り上げの5~6%だったワインが、今は50~60%を占めています」
と語る取締役の新井治彦(42歳)だが、実は、意外なことに、もともとワインが好きではなかったという。
高校、大学時代は剣道、大学卒業後はスキーに打ち込むスポーツマンだった新井は、88年、29歳の結婚を機に、家業を継ぐことを決意。当時、コンビニエンスストアに貸していた店舗を直営店にし、酒販店免許を返してもらって店の裏の倉庫で酒店を再開した。
「どうせやるなら新しいやり方で……と、ディスカウンターを始めました」
当時はまだ、酒屋のディスカウンターが珍しかったこともあり、売り上げは前年比20%の伸びを続けた。が、数年も経つと、伸び率は下がった。
「地域密着型だから、結局、売り上げは横這いになりました。そうなると、『ディスカウンターはあまり面白い仕事じゃないな』と思い始めて……」
そんなとき、新井は店を訪れた同業の社長から「ワインが何もないね」と言われた。「それまでは結婚式で使う大量生産の美味しくないワインしか飲んだことがなく、『ワインってまずいな』と思ってました。だから、彼の"何もない"という言葉がどういう意味なのかわからなかった。そこで、それからは少しずつワインの勉強を始めました。今から7、8年前のことです」
同じ頃、ある大きな会社の在庫整理で高いワインを大量に安く入手できた。安く買えれば自分でも高いワインを飲む機会が増え、その味を知るにつれ、
「高価なワインなら美味しいんだな、と思えるようになったんです」。
いつしかワインの世界に魅了されるようになった新井は96年、手作りの「ワイン便り」を顧客300人に発行しはじめた。ディスカウンターのノウハウを駆使し、高いワインを安く提供する和泉屋の噂は口コミで広がっていった。
「コツはつねに仕入れ先のお得意リストの3位以内に入ること。そうすればいいものを優先的に安く回してくれる」
そして、2年後の98年1月、彼はネットと出会う。
「まぐまぐでワインのメールマガジンを出していた友人から『値段が安くて美味しいワインは?』と相談を受けて、これに答えると、今度は『どこに売ってるんだ?』となっていったんです」
新井も同年10月にまぐまぐに登録。メールを出し、注文を受け、振り込みを確認して商品を送るという販売を始めた。最初は500人だった読者は12月に1000人を超え、売り上げも約200万円に上った。
そして、99年1月、オフ会で「楽天市場」の存在を知った。
「家賃5万円は高いと思いました。でも、10万円近くかかるワイン便りをやめればなんとかなるな、と」
商品の紹介メールを頻繁に送ったり、毎月の売上高を公表して信用を得るなどの商売人としての熱意が、月2000万円近くの売り上げへと結びついたのである。
「売るだけではない」本物のワインサイトが目標
"商売"よりも"お洒落"にこだわってネットを始めた小仲。彼女は2000年4月、父と共にWeb管理・コンサルティングの有限会社「まるや」を立ち上げ、eビジネスのさらなる拡充を図る。
「米国にはワイン・ドットコムというワインのポータルサイトがありますが、日本にはまだ本当に充実したワインのサイトはありません。やり方次第でもっといけるかなと思っています」
ディスカウンターとしての商人魂でワインのネット販売力を伸ばし続けてきた新井。彼は今、既存のメルマガを"ワイナリー和泉屋とフード・コーディネーターの根本友子の「ワイン大好き」"としてバージョンアップさせることに力を注いでいる。
「ワインの紹介や食べ物とのマッチングなど、純粋にワインの世界を楽しんでもらうためのホームページです。販売はリンク先の楽天で行います。これからの理想は"ブランド"ではなく"パーソン"。もっとワインを勉強して『新井さんが選んだワインなら飲んでみたい』と言うお客さんを増やしたいんです」
お洒落なブティック酒販店を夢見た少女はワインのネット・ビジネスのパイオニアとしてさらなる事業拡張に挑み、ワイン嫌いの元ディスカウンターは"ワインの伝道師"の道を歩み始めた。出発点の全く違う小仲と新井が、なぜか今、二人のネット・ビジネスは、あたかも「ワインの遺伝子」のように、2本の螺旋の束となって、響き合い、絡まり合いながら、新たな次元を目指そうとしているかのように見えた。
(PRESIDENT2000年5.29月号より)
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