「パーミション・マーケティング」でeビジネスに勝つ

インターネットに象徴される新しい情報インフラが普及する中、伝統的なマーケティング手法が壁にぶつかってしまっている。まず初めに、その背景となる理由について考察したい。
伝統的マーケティングの代表的な手法は、ビルボード・マーケティングストラックアウト・マーケティングに分けられる。ビルボード(看板)・マーケティングとは、掲示板や広告塔に載せて、「お客さん、いらっしゃい」と呼び寄せる「待ち」の戦法を指す。
テレビコマーシャル、雑誌広告、新聞広告、インターネットのウェブサイトがこの手法といえる。昔、線路脇の田んぼに立っていた看板と同じだ。目の前を通り過ぎる通行人が振り返って見てくれる「期待」を前提にしている。
ストラックアウト・マーケティングは、人気テレビ番組「筋肉番付」でお馴染みのゲームから名前を拝借した。
ピッチャーが野球のマウンドに立ち、九つの桝目に一から九の番号が書いてある板に向かって、
「1番の桝に当てます」
と自らの狙う桝を宣言してから、「1番」に命中させるようにボールを投げるゲームである。限られた投球回数で、九つ全部をぶち抜くのは至難の業。「1番」の桝を狙っても偶然に「2番」に当たることも多い。
伝統的マーケティングを実施してきた企業は、まさにマウンドに立っているピッチャーと考えられないだろうか。この場合、「ボール」というのは、生活者の持っているニーズや解決するべき課題、「欲しいと思っているもの」のことといえよう。生活者は自分は3番だというのに、企業は危うい手つきでボールを持ち、当たれば儲けものとばかり投げ、結果、7番に当たったりしている。本当は逆で、生活者がボールを持っているのだ。「私たちは、これが欲しいのだ。私たちが困っている問題は、これだ」と。
このように、顧客がマウンドに立ち、ボールを持っている市場のことを「逆転の市場(リバース・マーケット)」と呼ぶ。後に詳細を述べるが、アメリカのネットビジネス、通称ドットコム(.com)企業群はその基本骨格を、逆転の市場の哲学で成り立たせている。その大前提は、「顧客が価格を決める時代になった」ということである。価格を決める、すなわち商品の価値を決めるのは企業ではなく、顧客である、ということだ。ここに伝統的マーケティングがぶつかっている壁がある。プライスラインや、eベイは「顧客優位」を徹底させて成功させたモデルといえよう。

そもそも「マーケティング」という言葉には、企業が何とかして生活者を自社の方向に向かせようとするニュアンスがある。繰り返すが、今はボールは顧客が持っている。企業が何屋さんであるかは、企業が自分で決めるのではなくて、顧客が決めることなのだ。
例えば、ソニーは何屋さんだろうか。大人気ゲーム機プレイステーションの開発当時、「ソニーはおもちゃ屋じゃない」とモメたそうだが、私の息子に聞けば、ソニーはゲーム会社だと答えるだろう。
このように、自社で用意した名刺、つまりブランド・イメージが白紙になっていくのが現代の特徴だ。そして、顧客による投票によって何屋さんであるかが決まり、ブランド価値すらも、顧客が形成していくことになる。

世界最大のネット・ショッピング会社アマゾン・ドット・コム(http://www.amazon.com/)(以下、アマゾン)の株価時価総額はインドネシア国内の全企業の株価時価総額を上回っているという。たった5年前に創業されたばかりのインターネット・ビジネスなのに、その成長率は目を見張るものがある。ではそのアマゾンは、何屋さんだろうか。本屋? CD屋? おもちゃ屋? オークション屋? 答えは顧客が決めることである。
「インターネットは新たな価値を生める」。創業者ジェフ・ベゾスの言葉だ。インターネット・ビジネスの本質を表すのにこの言葉ほど、ぴったりなものはないだろう。インターネット・ビジネスをするのであれば、「新しい価値」「在来の店舗では生み出せない価値」を、考えなければやる意味がない。そこに、「書店」だけを意味するブック・ドット・コム(book.com)としなかった理由がある。無尽に水が流れ続ける広大なアマゾン河のように、大量の商品を送り続けるというメッセージが込められているのだ。
その新しい価値の一つが「パーミション・マーケティング」という、以下に説明する新しいマーケティングの発想に集約されている。


「パーミション」と「土足」の違い

「『パーミション=許容』を基本にしたマーケティング(permission based marketing)」という言葉は、アメリカでは一般名称として昨年あたりから使われていたようだ。そして、米国ヤフー社副社長セス・ゴーディンが書いた同名の本で体系化された。
では、「パーミション・マーケティング」について説明する前に、その対《つい》概念である、「土足マーケティング」について、考えてみたい。

Interruption marketing──直訳すれば「じゃまするマーケティング」となるが、他人の家に土足で上がり込むイメージから、土足マーケティングと訳した。頼みもしないのにかかってくる株の投資勧誘電話、ポストをあふれさせるチラシ、大事な郵便物とクズとの区別がつかないダイレクトメール。お気に入りのドラマを観ていて、いいところで引っ張られるコマーシャル。音楽を聴きたいのに、おしゃべりばかりのFM放送。これらはすべて土足マーケティングだ。

では、具体的にどのようなアプローチを取るのだろうか。パーミション・マーケティングの特徴をいくつか列記したい。

◆特徴1:顧客を育てる
パーミション・マーケティングを進めるには、いくつかの段階を踏まなければならない。
[1]見知らぬ通行人(将来の顧客)と友達の関係をつくる。
[2]その後に友達を顧客にする。
[3]一度掴んだ顧客と永続的な関係をつくる。
パーミション・マーケティング」の肝要は、この顧客との関係性に対する哲学であるといってよい。[1]にあたる手法は、ウェブサイトで新規顧客を開拓するために行うプレゼント企画が典型的手法といえよう。

◆特徴2:メッセージ
では、その、顧客とやりとりするマーケティング・メッセージの特徴は、次の3点である。
[1]期待される……人はあなたからのメッセージを楽しみに待ってくれる。
[2]パーソナルである……メッセージはダイレクトに個人に届けられる。
[3]適切である……パーミション・マーケティングは生活者が興味を示したものについてのメッセージを送る。
一度でもプレゼント企画に応募したり商品を購入した顧客に対して、定期的にショップからEメールを送るのはこの手法にあたる。

◆特徴3:繰り返しと信用
どれだけの範囲にメッセージを投げかけるかではなく、どれだけの頻度で繰り返しメッセージを投げるかが重要だ。繰り返しは「パーミション」の獲得につながり、「パーミション」は信用に結びつく。
ただし、メッセージは顧客から「信用」される良質なコンテンツでなくてはならない。商品情報の押し付けだけでは、「信用」を築くことはできない。

◆特徴4:顧客内シェアと生涯価値
伝統的なマーケティングのスタンスでは販売する瞬間に重点が置かれているが、パーミション・マーケティングでは販売や利益は後回しである。また、伝統的マーケティングはできるだけたくさんの顧客に、できるだけたくさんの商品を販売することに重点を置くが、パーミション・マーケティングでは一人の顧客における顧客内シェアと、生涯価値に重きを置く。「その顧客が一生のうちに、どれだけ自社の製品・サービスを買い続けてくれるか」ということだ。

●Vmail
ネットエイジ社のVmail(http://www.vmail.ne.jp/)が1月20日にサービスを開始した。日本初の本格的オプト・インメール、パーミション・マーケティングを実現するものとして、多方面からの注目を集めている。
オプト・インとは、「参加する」という意味で、利用者自らが、「広告の流れの中に参加するよ」と同意してくれて、各カテゴリーから欲しい情報を選び、各広告主からのメールを受信してもいいよ、という「パーミション」をVmailに与えるわけだ。
このサービスのユニークなところは、毎月末、クレジットカードの「ご利用明細書」と同じ思想で、「パーミション明細書」が利用者の手元に届けられることだ。これによって利用者は今、自分が何の「登録ジャンル」「登録カテゴリー」に対して「パーミション」を与えているのか、確認できる。
これにより利用者は定期的に必要とする広告を取捨選択でき、サービスの信用が高まる。
Vmailのいちばんの付加価値は、あふれんばかりの情報を、利用者の関心・興味に合わせて編集し、提供していくという機能を持っていることだ。
登録した利用者に無料で送られてくる「Vmail便り Vol.4」で、その趣旨に関して次のように記している。
「ユーザーや企業のみなさんの声をフィードバックさせることでカテゴリーを追加・変更していこうと思っています。Vmailへのパーミションの積み重ねに基づく『共創』こそが、Vmailの価値を高めるいちばんの仕組みになると考えています」
ここに出てくる「共創」という言葉がまさに鍵となる。

お客が価格を決める事例 [1]

●プライスライン
http://www.priceline.com/
98年にビジネスをスタートしたばかりだが、早くも有名ブランドになった。航空券、ホテル予約、車、住宅ローンなどを扱っているオンラインショップ。いちばんの特徴は、価格を決めるのは売り手ではなく、買い手であること。利用者は自分が買いたい価格を提示しておくと、プライスラインがその価格に見合った売り手を探し出してくれる。航空券の場合、米国内便であれば1時間以内に、国際便であれば24時間以内に返事が返ってくる。
一方、パーミション・マーケティングは、相手の家に土足で入り込むのではなく、向こうから玄関を開けて迎えてくれるのが特徴である。


eエコノミーで勝つための三つの要素

このようなマーケティングが注目されるのは、インターネットの出現により、経済の仕組みがドラスティックに変わると見られているからである。
現代のわれわれを取り巻く新しい経済を「eエコノミー」と呼び、その特性を考察してみたいと思う。eエコノミーは「お金」でもなく、また「情報」でもなく、もっと進化・深化した知識が資本となる。流通するのは「e化した知識」、すなわち電子武装された知識なのである。
eエコノミー」においてビジネスを成功させるには、「成功の三要素」と呼ぶ三つの要素が、それぞれバランスよく均衡を保っていることが必要だ。

(1)コンテンツ・リッチ:持っている物語が豊かである。
(2)コンテキスト・リッチ:顧客との関係性が豊かである。
(3)デリバリー・リッチ:製品・サービスの届け方が豊かである。

アマゾンでの買い物体験を事例として、「成功の三要素」を考えてみよう。
まず、ぼくが知人から『Permission Marketing』が面白いと推薦を受けたとする。
アマゾンのウェブサイトを訪れ、どんな本か、検討する。46人の読者からの書評が掲載されている。★の数が評価点だ。これまでの46人の評価の平均では4.5といったところか。
「すごい!」と絶賛している人もいれば、「もっと短くできたはず。また、インターネット・マーケティングが、ゲームや賭け事がなければ効果的ではない、といった誤解を与えかねない」といった指摘をしている人もいる。「退屈だ。1~2ページにまとめるべき」と極端に辛い点の人もいる。実はこの読者評価そのものも、別の読者によって評価される仕組みがあって、「この人、こう言っているけど、参考になりゃしないよ」とか、「たしかに、おっしゃるとおり!」とかが、わかるようになっている。
この、「評価の評価」という仕組みのおかげで、評価の品質維持、 評者そのものの自然淘汰、というまさにインターネットらしい仕組みによる健全性の確保がなされているわけだ。
ともかく、毀誉褒貶という本は、面白いに違いない。そこには読者の数だけ、物語が生まれているわけだからだ。アマゾンでの買い物の楽しさは、このように「物語」を読む楽しさがある。物語がリッチなのだ。ただ出版社がお題目を唱えるのではなく、書店側が「お勧め」するのでもなく、新しい「物語」が読者との関係性から生まれているのである。

アマゾンで一度でも買い物をすると、最初に現れるトップページで「阪本啓一さん、こんにちは! 本、音楽、DVD、ビデオ、おもちゃ、ビデオゲーム、コンピュータソフトのお勧めをご用意しております」と、出迎えてくれる。自分専用の「メンバーページ」をつくったり、あらかじめ指定した友人にお勧めする「ともだち専用」ページをつくることもできる。一度プレゼントした相手の住所は覚えていてくれて、何度も打ち込まなくてもいい。顧客との関係性リッチだ。もちろん、すべてはぼくがアマゾンに手渡した「パーミション」の蓄積に基づくものである。
そして、私が大阪市内のオフィスのパソコン画面をクリックすると、目的の本は、全米7カ所にある倉庫 (エンパイア・ステートビルの総床面積の1.5倍あるという)のうちの一つから送り出され、普通注文であっても、10日で太平洋を飛び越え手元に到着する。ちなみに、太平洋に近いからといってシアトルから来るとは限らず、今日届いた荷物の差し出し先は、ジョージア州にあるマクダナー(広さ80万平方メートル)からであった。
日本で店頭にない本を注文すると3週間待てといわれることを思えば、驚く速さである。デリバリー・リッチといえる。

お客が価格を決める事例 [2]

●イーベイ
http://www.ebay.com/
アメリカのオンライン・オークション・サイト。参加者はインターネット上でオークションに出品することも、落札に参加することもできる。扱い商品のカテゴリーは約1600種にも及ぶ。日用品からマニア向けまで、扱い商品はさまざまだ。3月1日現在で、460万を超える品がオークションに出品されている。大規模なデパート以上の品があることを考えるならば、オークションといえど商売の仕組みを根底から変えた大規模な市場といえる。


企業と顧客の境目がない
「お祭り型市場」

ここまで、成功の三要素に沿って、eエコノミーで勝つための三つのリッチを考えたが、最後にこれからのマーケティング・ビジョンを考えてみたい。
企業と顧客との境目がどんどんなくなっていき、顧客自身が市場をつくり始めていく、サービスにも参加していく──先述のように、アマゾンの持っている価値には、読者の書評も含まれている。従来の市場観とは全く違うわけで、それは「お祭り型市場」と表現できる。
お祭り。ここでは、だれが主宰者か、だれが参加者か、という境界は無意味だ。その場にいるみんなでつくり出していくものだ。祭りという場に対して、参加者各自が「パーミション」を与えて、自発的に参加しているのだ。市場はこのような「お祭り型市場」になっていく。実際のユニークな試みを見ていこう。

●空想家電(http://www.coi.co.jp/)
あるデザイナーが主宰する「空想家電」というプロジェクトは、こう宣言している。「あなたの身の回りには、 いったいいくつの HAPPY がころがっているでしょうか。例えば、家電。機能や性能の高さだけでなく、その姿・形を見ているだけで楽しくなったり、暮らしやすくなったり。 そんなデザインを、もしも自分たちの手でつくれたら。たとえ一人の落書きから始まったアイデアでも、それをいいと言ってくれる仲間を1000人集められたら、メーカーだって、放っておくわけにはいかないのではないでしょうか」

現在、くまのぬいぐるみの形をしたリモコンの開発を進めている。これまで実際に商品化された事例もある。開発されたアイデアは、参加者の投票によって、製品化されるかどうかが決定する。くまリモコンの場合、ぼくが見た段階では、投票数505票、製品化指数(各アイデアの製造を依頼できる工場との交渉度合い)50%とのことだ。みんなが生活を「ハッピー」にするためにはどんな商品が身近にあってほしいかということを、楽しく、夢いっぱいに語っている。

ネット社会は本質的に、「面白ければ参加する」お祭り的性質を持っている。創成期のパソコン通信サービスが自前で有料情報を用意して、お客さんが来るのを待っていたのは、実は工業社会の名残だったわけである。
これまで、新しい経済(eエコノミー)における「パーミション」を基本としたマーケティングについて考えてきたが、最後にポイントをまとめたい。

(1)生活者の時間を奪わない
生活者は時間がない。だから、彼らの時間を奪うのではなく、短縮してあげるサービスが求められる。
(2)生活者と生涯のお付き合いを目指す
一回きりの関係ではなく、生涯にわたってその製品・サービスを買い続けてもらえるような関係を構築する。
(3)生活者に参加してもらう
企業から生活者に一方的にメッセージを送り続けるのではなく、製品・サービスづくりにまで「参加」してもらう姿勢で臨む。
(4)生活者と共同して物語を紡ぐ
製品・サービスだけではなく、その周辺にまつわる物語を共に紡いでいく姿勢を持つ。

この四つのポイントを押さえたマーケティング戦略こそが、ネットが普及した新しい社会を勝ち抜くために欠かすことができないポイントである。

(PRESIDENT2000年4.3月号より)

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このページは、が2008年1月23日 05:17に書いたブログ記事です。

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